特許実務com Patented!!

社畜だけども弁理士試験挑戦中。2015年4月-6月はアメリカ特許実務研修中

アメリカへの特許出願における4つの方法と、選択の仕方

http://www.flickr.com/photos/31102254@N02/6381538651
photo by paloetic


僕が所属している会社は、米国への出願はほとんどPCT出願経由で対応している。すべてPCT出願をしている、というわけではないようだけど、少なくとも自分が担当している技術テーマ(電池技術など)は、全てPCT出願からの米国移行手続きによる米国出願。

PCT出願はするのは良いのだけども、結局、米国と日本、あとは中国ぐらいにしか移行していない。本当に今のままの方針でいいのか、悩みどころなので、少し米国出願の方法について考えてみた。


日本の企業が米国へ出願する場合の多くは次の4つの方法を取るそうだ。
(1) 国際特許出願(PCT出願)
(2) 非仮出願 (Non-provisional application)
(3) 日本語非仮出願
(4) 仮出願 (Provisional application)

それぞれのメリット・デメリットを考えてみます。

(1) PCT出願

1. メリット

 ✓複数の国において1回の手続きで出願日を確保することができる。
 ✓国際調査報告書で特許性を確認し、補正を行うチャンスがある。

2. デメリット

 ✓そもそも複数の国に出願しなければその費用効果は少ない。
 ✓国際調査報告とは別途に米国においても審査は当然行われる。

(説明)
PCT出願の1つ目のメリットは、何といっても簡単手続きで複数の国に同時に出願できること。日本の企業の場合、日本の特許庁に対して、日本語で作成した1つのPCT出願を行うことにより、複数の国に同時に出願したとみなされる。

したがって、国ごとに別々に手続きをするよりもはるかに手続きが簡単であり、複数の国への出願日を同時に確保することができる。これは納得。

 1度、国際出願をすると、明細書等の翻訳文の提出、及び各指定国(実際に権利を取得したい国)に手数料を支払うことを優先日の30カ月まで遅らせることができる。(必ずしもPCT出願日から30カ月であるわけではない。)

 そのため、PCT出願だけをまずしておけば、この優先日から30カ月の間に、どこの国で特許を取得すればよいのか、検討する猶予が与えられたことになる。出願日だけを確保しておいて、本当に特許権を希望する国にだけ翻訳文の提出をすればいい。したがって、最初から出願国を決める必要もなく、余分な費用の発生は抑えられる。

 国際出願は、米国に関しては、出願期限が迫っていて英語の明細書を作成する時間がない場合など、緊急な場合などに利用することが好ましい。PCT出願の手続きは、後で英語の翻訳文を提出しなければならないが、日本語書面で米国ではなく日本の特許庁に提出できる。なお、米国への出願はPCT出願ではなくとも、日本語で行うこともできるので、あくまで米国・日本以外にも権利化したい国があることが前提と思った方がいい。

 また、2つ目のメリットは、国際調査報告と国際予備審査により特許性について一度に把握することができることである。各国における審査の前に、先行文献の有無や新規性や進歩性などの特許性の評価を知ることができる。例えば、国際調査報告で、特許性の評価が低ければ、その評価に基づいて補正を行うことも可能だし、権利化を諦めるという判断も付けることができる。出願国ごとに補正を対応していれば、全ての国において同じ手続きを行う必要があるが、PCT出願の場合、一度にまとめて補正を行う機会が与えられるため、のちの中間処理費用が抑えられる。

 一方で、 米国のみ、又は日本と米国だけで権利化したい場合など、出願国が少ない場合は、PCT出願を行うと割高になる。これは、通常の米国出願に加えて、国際段階の手続き(国際調査見解書など)が加わるためである。

 PCT出願が割安になるのは、6カ国以上に出願する場合と一般的には言われているそうだ。特許の訴訟が活発に行われている国を6カ国以上探すのも至難なことかもしれないが、5カ国以下の出願を検討するのであれば、パリルートの出願でそれぞれの国へ出願した方が単純にコストメリットはいい。

 ただし、上記のコストメリットは、単純な手続き費用から見た見解に過ぎない。翻訳文を提出するまでの時間的な余裕、誤訳訂正書が提出可能になる、PCT出願の方が単一性の判断が甘いとのことから、潜在的コストも考慮すると、出願国が少ないからと言ってPCT出願を選択しない、という訳でもない。

 また、日本の企業はPCT出願を日本の特許庁へ行うのがほとんど。そのため、国際調査報告書を作成するのも日本の特許庁であり、先行文献には日本語で書かれた先行文献が引用されることがほとんど。国際調査報告で、日本語の先行文献しか引用されていない場合には、米国の国内段階で英語の先行技術が新たに引用されてジョゼ津理由通知を受けることを想定しておいた方がよい。これでは、米国特許庁へ直接出願していても、米国特許庁からのOffice
Action(日本で言う、拒絶理由通知)を受ける回数が変わることもなく、早期権利化までの中間費用が削減できるメリットも受けがたい。

(2) 非仮出願 (Non-provisional application)

1.メリット

 ✓ 出願国が少ない場合に利用すると費用は最小限に抑えられる。

2.デメリット

 ✓全て英語の書面を作成しなければならない。
 ✓ 誤訳の訂正ができない。

(説明)
非仮出願 (Non-provisional application)は、英語で出願書類を作成し、米M国特許商標庁に提出する出願方法。もっとも多くの米国出願がこれに該当し、いわゆる米国出願と言えば、この非仮出願である。英訳は、仮出願ではない、出願という訳なのでなんだか違和感があるが、これが最も一般的。

当然、日本の企業が、最初、日本に特許出願をした場合には、“パリ優先権を用いた米国特許出願”となる。(パリルートとも呼ぶ。)


非仮出願 (Non-provisional
application)の場合、当然、出願に必要な書類は英語で準備しなければならない。日本で作成した出願書類を翻訳するまでに時間を要するので、早くから出願書類の準備を行う必要がある。日本の出願を基礎とする米国出願の場合には、優先権はあるが、日本に出願しないで米国にのみ出願する場合は、出願日が遅れてしまうことに注意が必要。

また、英語に自信のある人なら問題ないかもしれないが、英語の明細書原稿のみで出願手続きを行った場合、誤訳があったとしても、それを訂正するのは容易なことではない。そもそも誤訳という主張を米国の審査官に主張することはできないので、明らかな誤記であることを主張しなければいけない。その点、PCT出願等で日本語の明細書を提出しておけば、その明細書の日本語本文を基に誤訳の訂正を主張することができる。PCT出願時の原稿に誤記があれば、そもそも訂正・修正はできないが。。。

(3) 日本語非出願

1. メリット

 ✓ 翻訳する時間がないときに便利。

2. デメリット

 ✓ PCT出願のように明細書・請求項の見直しができない。

(説明)
日本語非仮出願とは、日本語の明細書を添付して米国特許商標庁に提出する非仮出願。この出願方法が便利な場合は、出願期限が迫っていて、英語の明細書を作成する時間がない場合、かつ、少数国(米国のみ)緊急出願する場合に利用するのが好ましい。

日本語による米国特許出願が受理されると、米国特許商標庁から翻訳文の提出指令が出され、翻訳文を提出までの期間が指令される。この期間の間に翻訳文が提出されなければ、出願が放棄されたものとされる。

なお、米国特許商標庁は、提出する英訳翻訳文について“真実かつ正確な翻訳文”であることを求める、そのため、PCT出願の国際調査報告のように、出願後に発明の内容を見直すことができない。

日本に基礎出願をした場合であって、十分な時間をかけて英語で出願した方が好ましいことがある。緊急で米国に出願することが決まった場合には、他にも出願国候補がある場合には、2、3か国だとしてもPCT出願を選択して、発明の内容を見直せるようにしておいた方が好ましいかもしれない。

(4) 仮出願

1. メリット

 ✓請求項を作らずに出願することで、出願日を確保することができる。

2. デメリット

 ✓手続き回数が増えて、管理が煩雑になる

(説明)
仮出願とは、米国独自の特許制度であって、通常の特許出願の要件を満たさない簡易な書面だけの手続による出願をいう。仮出願の目的は米国における出願日を確保することにある。

仮出願をすれば、発明は完成したものの、クレームや明細書を準備する時間がない場合などに出願日を確保して他人の出願に対して優位に立つことができる。

ただし、仮出願は手続きが煩雑となり、費用も余分にかかるため、全ての米国出願について仮出願を提出しておくという方法は、現実的ではなく、日本の企業はあまり活用できていない。価値の高い重要な発明に限って、仮出願を行ってもよいように思うが。

 また、仮出願は簡易な書面で手続きが可能といったが、明細書及び図面は必要。必要ではない書類は、クレーム、発明者宣誓書、譲渡証、情報開示陳述書。

また、仮出願は日本語でも出願できる。そのため、日本出願の明細書をそのままコピーして、仮出願として提出することができる。なお、翻訳文の提出は不要である。

仮出願は審査されず、出願後12カ月を経てば自動的に放棄されたものとみなされる。出願人が仮出願を審査されるためには、仮出願日の12か月以内に、仮出願位基づく利益を主張して非仮出願をする必要がある。原則として仮出願では、仮出願時の明細書の補正を行うことはできない。

どの出願方法を選べばよいか。

以上の4つの米国出願方法から、考える米国出願方法の決定フローは下の図のようなものでしょう。あくまで目安であって、他にも手続費用だの、出願戦略なんかが混ざってこれば、このフローも大きく変わってくると思います。

f:id:t-dicek:20150218201657p:plain