特許実務com Patented!!

社畜だけども弁理士試験挑戦中。2015年4月-6月はアメリカ特許実務研修中

米国特許出願のための明細書の準備するにあたっての注意事項

http://www.flickr.com/photos/12584908@N08/3293117576
photo by jjpacres

はじめに

日本企業による米国特許出願は、まず日本特許出願(いわゆる国内出願)をした後に行うのが一般的ですね。したがって、日本出願の出願完了後、他国での権利化の必要性や発明の価値を評価して、米国その他の国に出願する旨を決定し、米国特許出願用の明細書の準備に入ります。下記では、この前提をもって書いていきたいと思います。


注)最初から日本、米国等を指定して国際出願を提出すること、日本出願をせずに米国出願をすることもできますが、これらの方法は、日本企業においてさほど多くは利用されていません。その理由は、複数の国で特許を取得しようとすると、相当な費用が掛かるうえ、手続きの負担も大きいため、他国で権利化するかどうかの決断は慎重に行う傾向があるためです。簡単に言うと、最初の出願前からその発明について複数国で権利化する価値があるかどうかを判断するのは難しいからです。


そこで、前述したように、まず日本に国内出願をし、その発明または明細書の内容をよく検討したうえで米国特許出願を行うことが必要です。

米国出願への準備

米国特許出願は、国内出願に基づいてパリ条約に定める優先期間内に提出するのが一般的です。優先権(Priority)とは、工業所有権の保護に関するパリ条約(Paris Convention)で保障されている権利であり、後のの米国出願について先の国内出願時に出願がなされた場合と同様の利益(新規性等の判断基準)を受けられる権利になります。


日本の特許出願をした後、米国特許出願をするとき、日本出願に基づいて優先権を主張します。この優先権が有効であれば、米国出願は日本出願の出願時に出願されたものとして扱われ、日本出願の出願日から米国出願の日までの間に特許性を否定する先行技術・文献があったとしても、その米国出願は拒絶されません。


注)優先権期間は特許については12か月です。(意匠、商標は6カ月。)したがって、日本特許出願の日から12か月以内に米国特許出願を完了しなければなりません。

パリルートの場合

パリルートによる米国特許出願の準備は、日本出願の明細書がすでにあることを前提とするならば、少なくとも優先期間の期限の6カ月前から開始することが良いと言われています。


この6カ月の内訳は以下のことを想定しています。
 1.英訳作成  2カ月
 2.発明者による技術内容のチェック 2カ月
 3.米国の特許弁護士による出願内容のチェック 2カ月


注)当然日本出願の明細書が長文であったり、または技術内容が複雑であったりすれば、より早期に準備を開始すべきなのはいうまでもありません。もちろん、6カ月よりも短期間で米国出願を完了することも可能でありますが、それでも優先期間の期限より2カ月前がリミットであると考えた方が無難です。なぜなら2カ月とは、英訳作成に1カ月、発明者による技術内容に2週間、米国特許弁護士による形式的なチェックが2週間とした場合になります。この場合、準備作業に遅延は許さない。すなわち十分な時間をかけて出願の準備をすることは、強い特許権を取得するための基本です。不十分な内容で米国特許出願をしてしまった場合、欠落した事項を後から追加することができていないため、十分な権利範囲が得られるかどうか不安は残ります。


なお、日本語による国際出願(PCT出願)、または日本語による米国特許出願の準備は、優先機嫌の1か月前に準備を開始してもよいでしょう。これは英文作成の必要がないため、準備作業を短縮できるからです。


*明細書の事前準備
明細書(Specification)は発明を詳細に記述した書面であり、権利の根拠となる重要な書面です。特に米国では、訴訟等で権利範囲を特定するために明細書を参照することがほとんどですので、その作成には十二分に注意したいところです。

繰り返しになりますが、日本企業が米国特許出願をするとき、日本出願の明細書を基礎として米国出願用の明細書を書き起こすのが一般的です。そこで、米国特許出願をすることを決定した段階で、既に日本語で書かれた明細書が手元にあるということが前提として、米国用の明細書の準備についての注意点を記載していきます。

英訳への意識

日本出願のときに、少しでも米国に出願することが頭にあるのであれば、当然、米国特許出願を意識して英訳しやすい明細書を作成することが好ましい。英訳を意識した明細書とは、すなわち、主語と述語を明確にし、論理矛盾のない簡明な表現を用い、短文を心がけることです。概して、日本出願の明細書、特に複雑な装置やソフトウェアの発明についての特許明細書では、特に主語が省略されているなど、その主語が不明確になりやすく、古典的で難解な表現を使用する傾向にあります。しかし、これでは翻訳に適していないのは言うまでもありません。日本語として上質な文章であっても、英語に翻訳しやすい文章とは限らないのです。


また、訳語が存在しないような造語や新語の使用はできるだけ避けなければなりません。日本語では、ある固有の意味を有する漢字を2個以上組み合わせた造語が使われることが多々あります。(例えば、‟検索結果”や‟冷凍保存”など)。これらの造語は、英訳されるとその意味が果たして本来の日本語通りの意味になるのか、不透明な場合もあります。なるべく造語は使わず、見慣れない日本語の単語を使用する時は明細書中で定義するように心がけましょう。

図面の問題

日本出願がフローチャート、回路ブロック図または機能ブロック図を図面として含んでいる場合も注意が必要です。大抵のフローチャートや機能ブロック図には、その図面におけるひし形や矩形で表されるステップまたはブロックの中の質問や機能名が記載されているからです。これらの質問文や機能名もなるべく、シンプルにする方が良いです。


日本語は漢字自体に意味を持たせているので、より少ない文字数で多くの意味を表現することができます。しかし、英語は同じ意味を表すのにたくさんの文字が必要となります。したがって、ステップまたはブロック中の文言を英訳すると、長文化してしまい、ステップまたはブロック中に書き切れない場合が出てきます。

明細書の見直し、改良発明・実施例のの追加、出願併合

日本語出願をした後、米国出願を目指して明細書の見直したをした時に、些細な誤記が見つかることも多くあります。そのような誤記は、必ず米国出願時には修正しておきましょう。日本の出願であっても、自発補正あるいは国内優先権を伴った新規出願で解消しなければなりません。


また、日本出願をした後、改良発明がなされたり、新たな実施例が生じる場合もあるはずです。日本出願時には含ませていなくっても、これらを米国特許出願に含ませることも可能です。改良発明や新実施例の追加は、権利範囲を広範囲取得したり、権利を維持する観点から望ましいので。積極的に行うべきです。


さらには、密接に関連する複数の日本出願の明細書の内容を1つの米国特許出願に併合することもできます。この方法のメリットとしては、複数の実施例を合わせても権利範囲に含まれるような、包括的で広い権利を取得することができること、別々に出願する場合よりも権利取得にかかるコストを低減することなどが挙げられます。翻訳費用と手続きが煩雑になるのを抑えるためにもよく利用されます。

しかし、このような出願に対しては、日本の単一性違反のように審査官が限定要求を発し、1つの出願の内容しか審査を受けられないこともよくあります。結局、2つ目以降の出願内容は分割出願をしなければならず、別々に出願したことと同じことになってしまう。発明の単一性に関しては、日本よりも米国の方が基準は厳しいと考えた方がいいと思います。ただし、これも悪いこばかりではありません。選択要求で審査を希望するクレームを選択させてくれるあたりは、日本に比べて優しいと言えますし、選択した発明の審査の過程を見て、権利化の判断を見た後、分割出願をすることで、早期の権利化にもつながります。


さらに、多数の出願を併合すると、明細書が長文化することは避けたいですね。明細書が長文化することによって審査官がクレームされた特徴の裏付けを明細書中に見出すことができず、審査官が無用に混迷する恐れがあります。米国の審査官は、その文言や文章の意味が分からないと判断すると、その内容を無視して参酌しないで審査することも多々あるからです。審査官も人間であり、多数の実施例を含む過剰に長大な明細書は、審査の信頼性にも影響を及ぼします。したがって、極めて密接な関係がある関連発明に限って、明細書が長文化しない範囲で、複数の出願を併合することを奨めます。

米国スタイルのクレーム、クレームの変更

もし可能ならば、日本出願の請求項は、米国特許出願のクレームスタイルに合わせておくことが望ましいとされます。


具体的な例を挙げると、日本出願の請求項では、以下のように書き下し調が使われます。
 【請求項1】AがBに接続され、CがAに接続された装置


日本語ならば上記の書き方で特に主語を迷うこともないのですが、この書き下し調はアメリカの審査官には不評です。アメリカの審査官は当然、アメリカ人が主であるので、その英文において主語が明確になるように、記載しなければなりません。


できれば、米国スタイルの次のような構成要素を列挙した書き方に修正した方が好ましいとされます。
1. Aと、Aに接続されたBと、Aに接続されたCとからなる装置。

日本特許出願の請求項が米国特許出願のスタイルに適合せずに、内容も日本特有の難解な表現である場合は、翻訳にこだわらず、米国特許出願用のまったく新しいクレームを作成することも検討してもいいかもしれません。無理に日本と米国の出願字に、クレームの内容を統一することを奨めているわけではありません。むしろ、発明の性質や重要度など個々の事情を理解した上で、日本と米国の特許出願それぞれ異なるクレームのスタイルや表現を使うことの方がよい権利範囲を取るためには重要なことです。



米国特許出願のクレームの内容を日本出願の請求項に対して拡大、変更、減縮をすることもできます。日本のみならず米国でも権利化を図ろうとする発明は、出願にとって重要性の高いものであろうから、より強く権利を取得するために米国特許出願前にクレーム内容を見直し、必要であればクレームされる発明の範囲の拡大などをしても良いのです。


また、新たな従属クレームを追加することもできます。日本では請求項の数に応じて費用が加算されていく料金体系であるため、一般的に請求項の数は少なくなる傾向にあります。しかし、米国ではクレーム数が20以下では原則として基本料金が同一(※1)。そのため、基本料の範囲内であれば、クレームは多い方が得であることは言うまでもありません。

※3個を超える独立クレームを含む場合などは追加料金が必要となる。


最後に注意点

米国出願に合わせて明細書及びクレームを書き換えることは、きめ細かい権利取得を測るうえでは有効ですが、拒絶理由通知を受けたときに個別に明細書内容またはクレーム内容を思い出さなければならず、検討に時間がかかり、効率はあまりよくないことかもしれません。そこで、米国特許出願のクレームを日本出願の請求項の内容にできる限り一致させるという、手法もあります。この手法は、国ごとの実務に合わせた細かい権利取得には向かないが、担当者の負担を軽減するメリットもあります。


例えば、審査が始まって拒絶理由通知に対する応答を検討する場合には、日本語で書かれた日本出願のクレームを参照すると、検討も容易になります。もちろん、審査の過程で米国特有の拒絶理由も挙げられるから、最終的には日本での特許と異なる権利内容となるのは止むを得ないですが。


しかし、出願当初のクレーム、すなわちスタートラインを共通に設定しておいた方がやりやすいこともあります。ただし、この方法を採用するときには、日本出願でのクレームの検討を十分に行うこと、クレームを直訳すると米国用のクレームになるようにしておくことが前提です。また、審査が開始された後は、日本出願の審査経過に捉われずに、米国のプラクティスに準じて対応すべきだということは言うまでもありません。