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特許実務com Patented!!

社畜だけども弁理士試験挑戦中。2015年4月-6月はアメリカ特許実務研修中

アメリカ特許法における発明者と職務発明について

http://www.flickr.com/photos/55779562@N00/9662665997
photo by pixbymaia


アメリカの特許法は伝統的に発明者を尊重します。発明者を尊重していることが最も明確に表れているのが、旧法における先発明主義を採用していたことです。先発明主義は、最先の発明者にのみ特許を与える、という主義だからです。

この伝統は法改正後の先発明者先願主義にもしっかり引き継がれ、発明者の資格は今も重視されています。それは先発明主義程はっきりと表れていませんが、アメリカの特許制度は今でも特許出願に際しては発明者による宣誓書の提出を義務付けています。だから、登録された特許には発明者の氏名が目立つように大きく掲げられています。

そう、だらかアメリカでは発明者が誰なのかをであるかの認定することも重要なのです。誤った発明者が記載され、その誤った発明者に欺く意図があったとされたら、不公正な行為または詐欺行為(フロード)と判断され、特許権を行使することはおろか、その特許が無効であると判断されてしまいます。

特に、個人発明家など稀な存在である現在において、企業の中で一つの開発プロジェクトにおいて、多くの研究者が共同して開発を進めています。そのため、誰が真の発明者なのかを訴訟で争った場合には、発明者を特定したプロセスも重要であるとされます。

日本では、従業員である発明者と雇用側である企業が争った裁判は、ノーベル物理学賞を受賞した中村修二さんと日亜化学の404特許事件が有名ですが、アメリカではさらに多くの職務発明に関する訴訟が行われています。

今日は、アメリカ特許制度の発明者と職務発明について書いていきたいと思います。

(1)発明者

①発明者の定義とは

発明者とは簡単に言えば発明を完成させた者です。発明者がたった一人で発明を完成させたならば、その者だけが発明者ですよね。たった一人の発明者を特定するのはそこまで苦労することではありません。

ところが、発明を企業の中で複数の人間で完成させたとなると、発明者の特定は一気にハードルが高くになります。誰がその発明の共同発明者になるかについては、訴訟においても多くの論争がありますね。

アメリカの特許法165条によると、共同発明者達は物理的に同じ場所で、同じ時期に仕事をしている必要がありません。さらに一つの発明の中で、それぞれの共同発明者がその発明に対してどれだけ貢献したか貢献度は一律である必要がありません。貢献度は発明者たちの同意のもと、それぞれの貢献度が異なって良いとされています。クレームされた発明すべてに貢献している必要もなく、中にはクレームされた発明の一部にのみ貢献した共同発明者もいるはずです。

つまり、そのように共同発明者の定義はとても曖昧になってしまう。その発明に対する貢献度について明確に分けようがないのです。

②共同発明者についての留意点

2人共同で発明した場合、2人の発明者でクレーム1に記載した発明を完成させて貢献度は同意の50:50にしたのはいいが、中間処理の過程でそのクレーム1は特許性がないと判断され、1人発明者だけでアイデアを出したクレーム2の構成要件で限定したことで登録されたことを考えて欲しい。さらには、登録されたクレームの発明が大ヒット商品の一部に利用されているとしましょう。

もともとのクレーム2のアイデアを出した発明者が強欲な人間であれば、「俺が一人で考えた」と主張してもおかしくないし、共同発明者であるもう一人の人間は「俺とお前で作ったモノだろ」と主張してくることも考えられます。結局のところ、実際のところは、発明時点のことは当事者の2人でしか分からないことなので、訴訟において互いの意見が平行線をたどり、判決が遅れてしまうといったことも起こりえます。


企業側としては、内輪もめで発明者同士が争うのは印象も良くありません。だから、企業は、このような状況に備えて、出願時にクレームごとに誰が発明者であるのかと、それぞれの発明者の貢献度をきちんと明示しておかなければなりません。また、出願時にクレームされてなかった構成要件を、中間処理において限定していくこともあるでしょう。そのため、中間処理においてもすべての共同発明者の同意を得ながらクレームを補正していくことが本当は望ましいのです。

③共同発明者を特定する方法

特許出願をする際にも共同発明者は共同して行わなければなりません。だから、出願時には共同発明者を特定しておく必要があります。発明者となるべき資格は、次のように決定されます。
1.クレームされた発明の特徴的な構成を把握する。
2.研究者の役割から各人の貢献度を把握する。
この過程を通して、発明の特徴的な構成に貢献した者を発明者と認定します。

ここで、注意したいことは、発明者を単に補助した者は共同発明者には含まれません。発明者を単に補助した者とは、次のような人たちが該当します。(この規定は日本の特許についても同じです。)
・単に実験データを取得した人。
・その発明者に開発の指示をした上司。
・その発明に投資を行たった支援者。 などなど。

④発明者の補正

特許出願時に願書に記載した発明者の名前は補正することができます。中間処理の過程でクレームを補正した結果、発明者が変わるときには注意をしなければなりません。例えば、クレームを削除した時は、その削除したクレームにのみ貢献発明者の名前は削除されなければなりません。当然、発明者を誤って記載してしまった場合も、発明者の名前を補正しなければなりません。

また、特許が登録された後であっても、発明者を訂正することができます。法改正前では、発明者の名前を訂正するためには特許庁を欺く意図がないことを証明する必要がありましたが、改正によってこの要件は削除されました。

(2)職務発明

職務発明とは企業の従業員が業務中に完成させた発明です。この職務発明に関する特許権が誰に帰属するものかについては、雇用側と従業員との間でしばしば訴訟が生じてしまっています。たいていの研究者は企業との雇用関係にあり、彼らの発明は業務の範囲内で完成されるものです。

発明者は自分が完成させた発明の権利を持ちたいと考えることは当たり前ですよね。しかし、企業側からすると、従業員が完成させた発明を独占し、ビジネスを有利なものにし、発明に投資した資金を回収したいと考えるのも当然です。

日本の特許法では、特許を受ける権利を雇用側に譲渡した時、従業員は相当の対価を受け取る権利がありますが、アメリカの特許法において発明者にこのような権利はありません。また、アメリカの法律は判例法であり、職務発明について判例によって確立された「発明をするための雇用」という法理があります。この「発明をするための法理」によって、ある条件の下で従業員が完成させた発明の特許権は雇用側である企業に帰属することがあります。

職務発明のルール

アメリカの特許法の場合、大前提として特許権は発明者が特許権所有します。したがって、発明者が従業員である場合であっても、その発明はその従業員に帰属することになります。

この原則を支えている思想は、発明者から容易に特許権が奪われてしまうことは、発明者の技術開発への意欲を著しく減退させてしまうことになり、アメリカの産業が発達しないことを危惧しているためです。発明者の特許権を厚く保護することで、技術革新を促進させようというのがアメリカの特許制度の考え方です。

また、従業員が特許を受けた職務発明について、雇用側は、職務発明権を得ることができます。この職務発明権は、非独占的でかつ移転不能といった制限がありますが、その特許権の実施料不要となる権利です。つまり、職務発明権は、雇用側は従業員が発明した特許権を使用したとしても、発明者である従業員から特許権の侵害を問われない、という権利です。
雇用側
ただし、この職務発明のルールについても例外があります。その例外は、1.従業員がその発明を完成させるために特別に雇用されているとき、と、2.従業員と雇用側との間に特別な契約が存在することです。これらの例外について、さらに詳しく書いていきます。

職務発明の例外1:発明をするための雇用

従業員が発明を完成させるために雇用されたとき、特定の問題を解決するように指示されたとき、雇用側は発明に関する権利を所有します。

この発明をするための雇用を立証するためには、たとえ、明示の契約は必要ありません。「発明をするための雇用」であることが認められれば、雇用側は発明に関する権利を得ることができます。このため、訴訟においては、発明をするための雇用関係に該当するか否についても争点になることが多々あります。

発明をするための雇用であるか否かを立証するためには、従業員に与えられた業務が特異的かどうかに基づいて判断します。また、雇用された時の契約に関係なく、その従業員が発明を完成させた時点でどのような業務に従事していたかよって判断されます。

言い換えれば、発明の完成時点の業務内容によって判断する。すなわち、雇用側から従業員に求めた業務内容が発明を完成させることであって、その代償として授業員が報酬を得ていたと考えられた時に、「発明をするための雇用」に該当します。

ところで、研究者として雇われている従業員は通常は何らかの発明をするために企業に雇用されているのであり、そのような従業員が「発明をするための雇用」に該当するか否かは、これも裁判官によって見解が異なるようです。現在のところ、発明をするにための雇用と一般的な雇用の境界線は明確に定まっているわけではありません。

したがって、雇用側である企業は、初めから「発明をするための雇用」の法理に期待することは好ましくないと考えることが一般的です。将来の争いを未然に防ぐことを考慮して、雇用関係を開始するタイミングで、従業員が完成させた発明について特許権の帰属について、明確な契約を交わすことがリスクヘッジの通例となっています。

職務発明の例外2:特別な契約がある場合

雇用側と従業員の間に特許権の取り扱いについて、特別な契約がある場合、発明に関する特許権の譲渡や使用などについては、その契約内容が最優先されます。契約に、‟職務上または企業設備を利用して完成させた職務発明に関する権利を雇用側に譲渡すること”“職務発明に関する情報をすべて雇用側に開示すること”、‟特許権が登録されるまでの審査や審判に関して協力すること”、など細かく条項を設ける必要があります。
一般的に、雇用側はイメージ戦略のためにも従業員との紛争を未然に防ぐため、適用がやや不明瞭な「発明をするための雇用」の法理や後述する職務発明権に頼ることはほとんどしません。雇用を開始するタイミングで前もって、発明に関する権利について雇用契約で明確に定めるようにします。

なお、このような雇用契約についても、州法に違反してはならないという制約があります。特許権や特許出願は連邦法である米国特許法によって定められており、米国全土において適用されますが、、雇用契約・発明に関する所有権は基本的に州法によって定められます。州法では、雇用の行き過ぎた制限から従業員を保護するためのを廃止する規定を設けることができます。ケースバイケースですが、州法に違反する雇用契約であるとき、雇用契約よりも州法が優先して適用されることのもあります。。

参考までに、従業員の発明を保護する州法としてイリノイ従業員発明法が有名なので、ここで紹介しておきます。同州法によれば、雇用側のいかなる装置、配給および設備を使用せず、かつ従業員の個人的(プライベート)な時間だけを用いて発明を完成させた場合は、その発明に関する権利を雇用側に譲渡する契約は無効である、とされています。

職務発明権の発生

従業員が特許を受けた職務発明について、雇用側は職務発明権を有することは先にも触れました。この職務発明権はきっちりと特許法の中で明文化されてはいませんが、その根拠は、従業員と雇用側の間の黙示のライセンス、禁反言、あるいは衡平法と3つがあります
 職務発明権が発生するケースは次のような場合があります。
 ・従業員に給与が支払われている就業時間内に発明を完成させたこと
 ・発明の具体化のために雇用側の設備を利用したこと
 ・完成させた発明を雇用側の生産設備・製品に導入したこと

このような条件をすべて満たす状況下であれば、雇用側は職務発明権を有すると考えられています。しかし、職務発明権が発生する条件は特に明文化されているわけではありませんので、上記に限らず、上記の条件件を満たしていなかったとしても、判例職務発明権を柔軟に認める傾向にあります。

職務発明権の移転

職務発明権は他者に譲渡するなど移転することを制限されますません。その理由は、自由な譲渡を認めてしまうと、特許権を取得した発明者が侵害者を訴追しようとした場合に、侵害者が職務発明権を譲り受けることを主張することで侵害を容易に回避することができるためである。したがって、職務発明権は雇用側の私的な権利という性質があります。ただし、すべての譲渡が制限されているわけではなく、事業全体の移転に伴う場合やまたは企業の合併や吸収の場合であれば、移転させることができます。

判例において、職務発明権の移転については当初の審判官の判断は比較的厳格でした。同じ社長がある会社を解散し、別の会社を設立した場合に認められなかった例があります。(Hapgood
v. Hewitt 119 U.S. 226)

Lane&Bodley Co. v.
Lockeの事件の判決では、職務発明権の移転が認められためには、事業に関する変化が所有者の資格に実質的な変化をもたらさないこと、とその特許権の発明者である従業員も職務発明権とともに移転した継続して勤務していることが要件とされました。

しかし、この要件も現在では比較的緩やかに解釈され、事業「全体」および営業権のライセンスを完全に承継することを条件に職務発明権の移転を認めた判例もあります。(California
Eastern Laboratories Inc v. Gould, 896 F. 2d 400, 13 USPQ2d 1984)

また、注意したいことに職務発明権は独占的な権利ではありません。ではない。したがって、特許権者となった従業員は雇用側だけでなく、その他の企業・他人にも実施権を許諾することを制限されていません。初期の判例は、職務発明権の効力が及ぶのは、従業員が雇用関係の解消前に製造した製品・商品だけと考えられていました。しかし、この基準では職務発明権はあまりにも実用性がなく、雇用側である企業がその職務発明に係わる製品・商品を継続的に生産できるように配慮する必要があると見直されつつあります。つまり、職務発明権は、雇用側の事業において同様の条件下で特許製品を必要なだけ複製することを含むとすることも今後の判例では判断されることもあるでしょう。ただし、職務発明権は、従業員との雇用関係が解消した後の新しい事業や新しい用途については適用されないことには変わりありません。

職務発明権の意義

職務発明権は雇用側をあくまで守る権利、防御的な性質しか持っていません。つまり、特許を取得した従業員から特許侵害の訴追を受けないことが保障されているという権利に過ぎないのです。

しかもその防衛的な性質も不完全であり、特許権者はいつでも自己の権利を競合他社に譲渡することができ、その競合他社からその職務発明権の存在を否定する紛争を持ち込まれる危険性は常に含んでいるのです。

また、雇用側は職務発明権の存在を認めさせるために、従業員に給与を支払っている就業時間内に授業員が発明を創作し、発明の具体化のために雇用側の設備を利用し、その具体物を生産設備・商品に導入したことをいちいち立証する必要があります。

これを立証することは雇用側にとってもかなりの負担が求められます。そのため、雇用側は職務発明権に頼ることなく、初めから契約によって発明に関する権利を従業員から譲り受けることの方が好ましいとされます。

⑦日本の企業の注意点

日本の特許法では、特許を受ける権利を雇用側に譲渡した時、従業員は相当の対価を受け取る権利を有すると規定されていますが、このような規定は連邦法であるアメリカの特許法には存在しません。

一般的に日本の技術者とアメリカの技術者では給料や地位が大きく異なる、というのはこのところ端を発しているのではないでしょうか。アメリカでは、発明者が雇用側からのその発明に対する正当な報酬が得られていないと判断した場合には、他の競業他社にも権利を契約させる恐れがあるからです。そのため、発明者のインセンティブを高めるため雇用規則に特別な報奨金を支払う企業も多いのです。


したがって、日本企業がアメリカで研究所などの事業所を設けた場合、職務発明については慎重に取り扱う必要があります。次々に新しい発明を生み出し、企業活動を活発に持続させるためには、発明者に対する正当な報償制度を整備しておくことが必須になります。

また、雇用契約は州法に違反してはならないということも念頭において下さい。従業員の権利を不当に制限する契約は、特許法ではなく州法によって無効とされる場合があることにも留意する必要があります。

また、この発明者が尊重されるアメリカの特許制度を魅力的に感じて、日本の優秀な技術者がアメリカに流出しかねないと危惧します。第2の中村修二を生み出さないためにも日本の発明者の地位向上に期待したいと思います。