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特許実務com Patented!!

社畜だけども弁理士試験挑戦中。2015年4月-6月はアメリカ特許実務研修中

アメリカの先発明者先願主義とは

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http://www.flickr.com/photos/55247565@N05/6058142799
photo by olga.reznik

(1)アメリカ特許に関する新規性の変遷

①先発明者先願主義の導入の背景

2011年に制定されたリーヒー・スミス・アメリカ発明法は、それまでの先発明主義から一転、新しい先発明者先願主義を採用しました。。

アメリカ以外の国のほとんどでは先願主義が採用されています。先願主義の下では、同一の発明について複数の特許出願が出願されたときには、最先の出願人のみが特許が付与されることになります。

一方、先発明主義の下では、同一の発明について特許出願が主眼されたときには、どちらの出願人がクレームされた発明を最初に発明したかが決定され、最先の発明者にのみ特許が付与されます。


先願主義においては、出願日が極めて重要な意義を持っています。出願日は、特許証などに明記されるため、客観的かつ簡易に特定することができます。一方で、先発明主義においては、発明日は特許証には明記できるものではなく、発明者の主張に依存することも多く、不明確であり、それを立証するためには実験ノートなどの証拠を提出する必要があります。


先願主義と先発明主義はまったく異なった思想になります。同一の発明について2以上の特許出願がされた場合、先願主義では最先の出願日を有する特許出願について特許が付与されますが、先発明主義では莫大な時間と費用をかけて最先の発明者を決定しなければなりません。


発明日を特定するためにインタフェアレンスという手続きを取る必要がありました。このインタフェアレンスで発明者を特定するためには、はしばしば数年もの期間を要し、その費用は相当な額になってしまいます。


また、出願人とっては手続き的にも手間がかかってしまいます。インタフェアレンスの手続きに巻き込まれることに備えて、特許出願を行った発明について、発明日を立証するための証拠を企業内に保存しておかなければならいないのです。

さらに、先願主義においては、出願日以前にされた発明者自身の開示も先行技術とみなされるため、原則として、自己の特許出願も自己の先行文献によって拒絶される恐れもあります。したがって、日本では新規性の喪失の例外などもありますが、なるべく発明者は特許出願前に自己の発明を公開することを避けるべきです。


アメリカの特許法を改正するにあたって、特許法改正委員会は企業だけでなく、大学や小発明家などにヒアリングを行った結果、グレース・ピリオド、すなわち新規性を喪失しない期間が改めて認められました。


アメリカには個人発明家も多く、彼らは特許管理を行う前に特許出願予定の発明を公開しなければならない事情も出てくるでしょう。例えば、資金を募るために第三者に公開するなど。そんな個人発明家のために、グレース・ピリオドが発明者にとって特許出願を準備するための十分な時間と費用を得るための時間になります。また、発明の早期開示は一般人にも利用できる時間が早くなるということで第三者にとっても利益があることになります。


しかし、アメリカの特許制度に対しても長年、多数の企業から要請で、アメリカもヨーロッパや日本と同じように先願主義を採用して欲しいという主張がなされてきました。確かに、アメリカの特許制度が始まった時代では、アメリカ以外の外国で特許を取得するという事情は少なかったから、問題はありませんでした。


企業が先願主義を希望するのは2点の理由がありました。1つ目は、近年、企業が2つの国に特許出願が対応しなければならないのは手続きが煩雑になってしまうからです。2つ目は、企業にとっても新規性の基準が出願日になることで発明日を特定するための労力を費やされることを避ける方が費用面等でメリットがあるからです。


先発明主義と先願主義の違いを考慮して、新しいアメリカ特許法では、両主義の特徴を含む、いわゆる先発明者先願主義を採用しました。この先発明者先願主義は、国際調和のためにアメリカの特許制度を先願主義に近づけながら、発明者に1年の絶対的なグレース・ピリオドが与えられました。


先発明者先願主義を採用したことによって、発明日を特定するためのインタフェアレンスが廃止され、インタフェアレンスに代わりに冒人手続を導入しました。同一の発明について、真の発明者であるかに疑義が生じたときは、この冒人手続で争うことになります。

②グレース・ピリオドについて

先発明者先願主義になった後もグレース・ピリオドは引き続き存続し、グレース・ピリオドの解釈について、旧法と現行法と間で異なる異議を持つことになります。旧法と現行法に共通するグレース・ピリオドの定義は、自己の発明を公開しても、その日から1年以内に出願すれば、その公開された発明は先行技術とはなりません。


そのため、先願主義の時分は、グレース・ピリオドのことをワンイヤー・ルールと呼んでいました。このグレース・ピリオドは日本でいう新規性喪失の例外に類似しています。


アメリカ特許法の旧法において、グレース・ピリオドの根拠は、新規性の喪失の例外の要件を規定した旧102条でした。旧102条(a)、(e)では、新規性を否定するための先行技術は「他人」によるものでなければならないとされていました。


したがって、旧102条(a)、(e)によれば、公開されていない発明者自身の技術が引用されて拒絶を受けることはありませんでした。続いて、旧102条(b)では、「合衆国における出願日より1年以上の前に、特許取得、刊行物記載、公用、または販売された発明は、特許を受けることができない」と規定されています。つまり、発明者自身の先行技術であっても、その発明の公知である期間が1年を超えたときは、発明者の特許を受ける権利は消滅してしまいます。


反対に、その発明が公知になってから1年を経過していなければ、旧102条(b)の適用を受けずに、発明者は特許を受けられることになります。すなわち、発明者に1年間の猶予期間が認められていました。


グレース・ピリオドが規定されていた理由は、アメリカでは最先に発明をした者が特許を受けることができる先発明主義を採用していることにありました。


もし、仮に旧102条(b)の規定がなければ、発明者が発明を完成してしまえば、この発明者は発明日の立証ができる限り、先発明主義の下でいつでも特許を受けることができてしまいます。これでは公益が損なわれことになります。そこで、アメリカの特許法では、旧102条(b)によって、発明の公開後一定期間が経過した後に、特許を受ける権利を強制的に消滅させることにしました。この一定期間は発明者と公益の調和を図るべく、1年に設定されました。


現行法でのグレース・ピリオドの根拠は、102条(b)(1)です。102条(b)(1)(A)によれば、クレームされた発明の有効出願日前1年以内にされた開示であって、その開示が発明者、共同発明者、または冒人者によってされた場合は、その開示は先行技術とならないとされています。


また、現行法の102条(b)(1)(B)によれば、発明者等による開示の後の開示は先行技術にならないとしています。つまり、発明者が自己の発明を開示した後は、1年以内に出願すれば、その1年間に生じた中間開示を克服して特許を受けられます。


すなわち、先願者よりも先開示者が優位であるとされます。旧法でのグレース・ピリオドが先発明主義を修正する目的でした。それに対して、現行法でのグレース・ピリオドは、自己の開示によって不利な取り扱いを受けない絶対的グレース・ピリオドを先開示者に与えることによって、先願主義の厳格さを修正する目的を持っています。

③アメリカのグレース・ピリオドと日本の新規性喪失の例外との相違

日本でも自己の発明を早期開示してしまった発明者を保護する観点で、グレース・ピリオドと同じように新規性喪失の例外があります。日本でも原則として、特許出願前に公開されて新規性を失った発明は、特許を受けることができません。出願前に新規性を喪失してしまった発明であったとしても、一定の要件や手続きを満たしたときは、例外的に新規性を喪失しなかったものとして扱われます。


日米の大きな違いは、グレース・ピリオドの適用に関する手続きです。日本では、出願と同時に新規性喪失の行為があった旨を記載した書面を提出し、かつ、証明書面を30日以内に提出する必要があります。出願人がこれらの手続きをしていなければグレース・ピリオドの利益を受けることはできません。


一方で、アメリカでは、出願時に、グレース・ピリオド内の発明者の開示に関する陳述を明細書に含ませることができる、とされています。しかも、陳述をすることがpreferredだとしているので、推奨しているのみであり、実際に陳述するかどうかは出願人の任意です。


加えて米国特許庁商標庁(USPTO)はこの改正法の策定段階で、出願人が規則1.77(b)で指定している陳述の方式を採用しなければならないということもないと公式的に認めています。また、USPTOも拒絶を克服する必要がない限り、そもそも先の開示を特定しなければならないという義務もない、と公式に認めています。


したがって、アメリカでは、出願時にグレース・ピリオドの適用に関して特別な手続きをしなくとも、事後的に規則1.130等の宣誓書を提出すればグレース・ピリオドの利益を受けることができます。これは、旧法のグレース・ピリオドの適用を受けるために、義務的な手続きを要求していなかった運用を引き継いだものです。


両者の違いの第2点として、日本では、新規性喪失の例外はあくまでその新規性喪失行為がなかったものとみなされるだけです。つまり、日本では、発明者の行為により公知になってからの1年間に第3者が同一の発明を公表するか、あるいは出願すれば、先願主義(39条)によりその出願は拒絶されてしまいます。


これに対して、アメリカではグレース・ピリオドは先願主義の例外になります。つまり、アメリカの特許制度では、グレース・ピリオド期間内に他人が同一の発明を公表しても、あるいは出願しても、例外規定によりその出願は拒絶されません。

(2) 先発明者先願主義の概要

①発明日を証明することが不要

102条(a)(1)及び(a)(2)では、発明日という基準を含んでいません。その代わりに、そのクレーム発明の有効出願日が基準となっています有効出願日は、以前に存在していた文献または発生した出来事が先行技術となります。


したがって、発明者が有効出願日よりも前に発明を完成させていた事実を立証することによって特定の先行技術や開示を克服するという、先発明主義で認められていた手続き(いわゆるSwear Behind)をすることができません。

②先発明者先願主義における新規性喪失の原則と例外

102条(a)(1)では、原則として新規性を失わせる行為が列挙され、それに対する例外として102条(b)(1)が設けられています。同様に、102条(a)(2)では、先願の特許または公開公報に基づく新規性を失わせる開示が列挙され、それに対する例外として102条(b)(2)が設けられています。

102条(a)(1)は、伝統的な新規性の要件を定めており、日本の特許法で言えば、29条1項に該当します。また、102条(a)(2)は、後に公開された先願に基づく新規性の要件を定めており、旧102条(e)に代わる規定として機能し、日本特許法でいえば29条の2(拡大先願)に該当します。

そしてそれぞれに対して、以下のような例外がある。

102条(a)(1)

 グレース・ピリオド内発明者開示の例外  102条(b)(1)(A)
 グレース・ピリオド内非発明者開示の例外 102条(b)(1)(A)
 グレース・ピリオド内中間開示の例外   102条(b)(1)(B)

102条(a)(2)

 非発明者開示の例外           102条(b)(2)(A)
 中間開示の例外             102条(b)(2)(B)
 同一人所有による例外          102条(b)(2)(C)

③地域的な限定の排除

旧102条(a)及び(b)では、公知、公用および販売が先行技術となる活動として認められるためには、その活動が米国内でなされることが要件とされていました。


しかし、国際的調和を考慮し、現行法で米国内の活動としての要件とする限定が取り除かれ、公用、販売、その他の開示が先行技術として認められるためには、必ずしも米国内でなされる必要ではありません。

④放棄等の排除

先発明主義による102条では、発明の放棄(102条(c))、早期に与えられた外国特許(旧102条(d))、冒人(102条(f))、他人の先発明(102条(g))は、特許要件から削除されています。


例えば、旧102条(d)では、その発明が外国で早期に特許された場合には、特許を受けられない旨を規定していましたが、現行法では特許性に関係ないものとして特許要件からは外されています。


旧102条(f)では、発明を自分で完成させていない場合は特許を受けられない旨を規定していましたが、現行法では冒人手続き(Derivation Proceeding)によって、真の発明者を特定するように取り扱われることになります。


旧102条(g)では、その発明前に他の発明者によって発明が完成されている場合には特許を受けられない旨を規定していたが、この要件も先発明主義から先願主義への転換に伴い、他人の先願または先開示がない限り、特許性に関係のないものとして要件から削除されている。

⑤先行技術として「その他公衆に入手可能」の要件が追加

先行技術は、「その他公衆に入手可能(otherwise available to the public)」と102条で規定されています。でつまり、旧102条にはなかった、先行技術の包括的なカテゴリが追加されています。「その他公衆に入手可能」と「販売」との関係については改正法成立直後から様々な議論があり、まだ明確ではないところがあります。

⑥インタフェアレンス制度の廃止

現行法では、先発明者主義に移行したため、最先の発明者を争うインタフェアレンスは廃止されました。インタフェアレンスが廃止された代わりに、真の発明者を特定する手続きとして冒人手続きが設けられています。


ただし、2013年3月16日までに出願された特許出願に対して依然先発明主義として適用されます。そのため、旧法下において出願された登録特許につていはインタフェアレンスを請求されることがあり得ます。