読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

特許実務com Patented!!

社畜だけども弁理士試験挑戦中。2015年4月-6月はアメリカ特許実務研修中

103条、非自明性の欠如を理由とする拒絶理由を受けたら、出願人はどのように対応するべきか

特許実務 特許実務-アメリカ特許実務 外国特許 外国特許-アメリカ特許 法解釈 法解釈-アメリカ特許法

http://www.flickr.com/photos/73025637@N02/8171362048
photo by Ephemeral Scraps

前回の記事で日本の特許制度における進歩性代わる、アメリカの特許制度の非自明性について説明しました。非自明性について、少し触れたところで、実際にOffice
Actionで審査官から103条に基づく、拒絶理由を受けたときに、出願人はどのように対応しなければならないか、今日の記事はそのあたりをテーマにしたいと思います。

(1)審査官が一応自明と判断した場合の反証方法

審査官の審査の結果、一応自明であると判断された後は、出願人がその審査官の一応自明とする判断を覆す必要があります。立証責任が出願人に転嫁され、審査官の判断を覆したい場合には、出願人は明細書や図面の中の明示や、あるいは宣誓書を利用して、反論しなければなりません。

①出願人による自明性を覆すための主張すべきポイント

審査官が下した非自明性の欠如の判断に対して、出願人が反論すべき典型的なパターンは大きく分けて次の7パターンが挙げられます。
★本発明では当業者が予想できない結果を生み出す
★審査官が組み合わせた複数の先行文献に対して、当業者が組み合わせることの教示、示唆または動機が見当たらない
★審査官が組み合わせた複数の先行文献は、互いに組み合わせて物理的に成立できないか、その組み合わせたとしても動作することがないため、先行文献を組み合わすことができない
★クレームに記載された発明の構成要件が、引用された先行文献の中に存在しないため、先行文献を組み合わせたからといって、クレームに記載された発明の複製に該当しない
★引用文献がクレームに記載された発明の技術分野と大きく異なり、類似の先行技術とは言えない
★審査官が非自明性を否定する根拠が、出願日より後に判明した事項、つまり後知恵によって構築されている
★先行文献の開示の中にクレームに記載された発明の効果と反対の効果を教示している。


「当業者が予想することのできない結果」とする主張は、KSR事件以降、非自明性を立証させるために、最も効果的な主張と言われています。その理由は、KSR事件判決において、「従来から知られている構成要件の公知の方法による組み合わせは、“それが予測可能な結果以上のものを生み出されない限り”、自明である」と述べられていたためです。この発言は裏を返せば、「従来から知られている構成要件の組み合わせであったとしても、“予測可能ではない結果を生み出せば”、自明ではない」と言えるからです。


また、審査官が組み合わせた複数の先行文献に対して、引用例を当業者が組み合わせることの教示、示唆または動機が見当たらないことを主張する、TSM(Teaching、Suggestion
or Motivation)テストを用いた反論は、KSR事件でその硬直的な適用は否定されましたが、依然として非自明性に対して、古典的だが有効な反論の根拠であると考えられます。

②副次的な証拠

自明ではないと主張する反論と一緒に、副次的な証拠できる限り提出すると有効です。これらの証拠は、明細書に既に記載されていることを根拠としてもよいし、後述する規則1.132の宣誓書によって例えば追加実験などの結果を提出することもできます。


副次的な証拠としては、以下のような証拠や根拠を提示することができます。★その発明が長期にわたって解決困難であった課題の解決方法であること
★その発明を創作しようとした他者が失敗した創作との対比
★商業的・経済的な成功
★当業者たちが予想できる効果の範囲の特定
★先行文献を組み合わせることができないとする阻害要因
★先行文献に対する専門家の懐疑的な意見
★他人による模倣


 「その発明が長期にわたって解決困難であった課題の解決方法であること」の主張することは、技術革新に寄与したため、有効性については十分な根拠になります。ただし、長期未解決であった課題の解決法であることを主張するときの注意点は、KSR判決において設計インセンティブや市場のニーズが設計変更を促進するための駆動力になるので、未知の課題を解決することが、当業者にとって「予測可能」設計変更に該当し、その設計変更は自明である、と述べられてしまっているからです。つまり、長期にわたって未解決であった点は考慮されず、設計インセンティブや市場にニーズがあった圧力はあったという事実が先行されて、その課題を解決しようとすること自体が自明であるという結果を招く恐れがあります。

「専門家の懐疑」とは、審査官の認定に対する専門家による懐疑的意見になります。専門家(大学教授や有資格者、発明者)などの立場から、審査官の判断に異議を申し立てることを言います。例えば、審査官が先行文献として挙げた発明の認定が間違っている場合や、先行文献の組み合わせることができないとする根拠を主張します。

また、「他人よる模倣」とはクレームに記載された発明を競合が市場で模倣して既に販売していることをいう。競合による模倣の事実は、その発明が優れた効果を有することのゆるぎない証拠としての価値があります。

③不当な後知恵

出願人は、審査官が説明する拒絶理由となる根拠が不当な「後知恵」(Improper
hindsight)に基づくものであると主張することも有効です。ただし、非自明性に関する判断はそもそも後知恵に基づく再構成であることも了解しておく必要があります。つまり、出願人が一度後知恵であるとする主張を審査官がさらにそれを否定する証拠がでれば、それを出願人が再度否定することができなくなります。

また、出願人は、出願日時点で二以上の文献を組み合わせる動機がないことを主張するため、その組み合わせる動機についても「後知恵」であると主張することもできます。ただし、審査官が非自明性の拒絶を提示するとき、必ずしも「明確な」動機が示唆できる必要はないことにも注意しなければなりません。明確な動機が必要ではないため、そのような反論が「暖簾に腕押し」の状態になりかねません。

④「試みることが自明」の不当性

出願人は、審査官がした非自明性の欠如の根拠が「試みることが自明」の基準を不当に適用していると主張できます。「試みることが自明」の基準とは、その発明が限られた数の予測可能な解決方法のうち、合理的に成功が期待できるものを出願人が選択したものであるとすることであり、なぜその解決方法を選択したのか合理的な説明のつく、“選択”が発明の創意のポイントであることを主張することも非自明性の根拠とすることができます。

⑤先行文献に開示されている反対の教示

先行文献の内容に、クレームに記載された発明に対して、反対の教示をしていることは、非自明性の判断における重要なファクターになります。審査に係属している発明の内容に反する内容が、先行文献に開示されているのであれば、出願人が主張する内容がその出願時における当業者の予測できる範疇ではないとする主張が友好的に働きます。また、引用された先行文献同士が相互に反対の教示をしているときは、その文献を組み合わせることができません。


しかしながら、反対の教示はかなり強い関連性がなければなりません。単に、同様の目的に使用した場合、他の製品よりも劣ることを主張しても、非自明性は認められません。

⑥その他の留意点

Ⅰ.反論材料の証拠

先行文献による反論は反論の材料であって物的な証拠とはなりません。たとえ、弁理士による反論がその弁理士の個人的な経験だけではなく、一般的な経験則に基づいた主張であっても、それは事実的な証拠とは認められません。適切な宣誓書によって裏付けられた物が証拠としての地位を有します。

Ⅱ.潜在的な利点や属性の主張

先行文献には開示されていない、特に具体的には記載されていない利点や属性を主張しても、その先行文献においても、その利点や属性を潜在的に存在していると審査官が判断すれば、その点をさらに主張しても非自明性の欠如を覆すことはできません。

Ⅲ.先行技術が組み合わせ不可能という主張

審査官がそのクレームに記載された発明の非自明性を欠如する根拠として引用した先行文献に開示されている複数の先行技術が、単に互いに物理的に組み合わせることができないという主張だけでは自明ではないとは認められません。

非自明性の判断は、引用された第2の文献の特徴を具体的に第1の文献の構造に組み込めるかという問題ではなく、これらの文献の教示の組み合わせが当業者に対して示唆されたかどうかという基準に基づいて行われます。


つまり、先行技術が物理的に組み合わせ可能である必要はなく、あくまで文献開示の中に、組み合わせることの動機が当業者の能力の範囲内にあるのか否かを基準に判断されなければなりません。

Ⅳ.個々の文献の組み合わせた発明に対する反論であること

複数の引用された先行文に対して個々に反論してもそれ反論は無視されてしまいます。個々の文献ではなく、その個々の先行文献を組み合わせた発明に対して、クレームに記載された発明の非自明性を主張しなければなりません。

Ⅴ.組み合わせられる文献の数

審査官は審査に係属するクレームに記載された発明に到達させるために、2以上の先行文献を組み合わせてもよいとされ、先行文献の数は問題にされません。私が知る限りで、過去の審査では、なんと13個の先行文献の組み合わせによって、一つのクレームに記載された発明の非自明性を否定した例があったそうです。

Ⅵ.経済的な理由

先行技術の組み合わせることができないとする理由が、経済的な理由を用いることができません。組み合わせるコストの解決が非自明性を有する根拠としてはいけません。

(2)出願による分析と応答

①非自明性の分析

KSR事件判決が出た後、非自明性の判断がTSMテストのみに依存しなくたまっため、非自明性の判断基準が柔軟になったのは事実ですが、より反論を行う出願人にとっては反論方法の多様化したこともあって、非自明性の欠如に対する考え方が複雑化してしまったとも言えます。


非自明性の主張を行うとき、まず以下の点を分析する必要があります。
★引用された先行文献を組み合わせた結果、クレームに記載された発明の構成要件すべてが揃っているのか
→ 含まれていない構成要件がある場合は、element not present incited artを主張

★クレームに記載された発明の効果に引用された文献にも開示されていない予期せぬ効果はないか
→ 予期せぬ効果がある場合は、unexpected resultsの主張

★引用された先行文献にそれぞれを組み合わせる動機があるか
→ 動機がない場合は、improper motivationの主張

★先行文献を組み合わせることに対して何か阻害要因はないか
→ 組み合わせができない場合は、incompatibleまたはinoperableを主張

★その他の要素の検討
→ teach away, analogue prior art, improper hindsight の主張

★副次的な証拠があるか
→ secondary consideration の提出

②特許弁護士への指示

米国特許弁護士にかかる費用が高額になるため、多くの出願人は、予め拒絶理由に対して社内で検討した上で、アメリカにいる米国特許弁護士にどのように主張するべきか指示を行うと思います。米国弁理士に一から拒絶理由の分析や応答案を検討させると、本当にお金がかかります。


たいていの場合、アメリカと日本では半日ほどの時差もあるので、口頭で行う指示を行うのかというよりも、書面にて「improper
motivationに基づいて反論して欲しい」旨の指示することになると思います。


当たり前ですが、米国特許弁護士に対して単に「クレームに記載された発明と引用された先行文献に違いがある。」「クレームに記載された発明と引用された先行文献とは目的が異なる。」などの漠然とした指示だけでは、米国特許弁理士も正しく出願人クライアントの意向を把握することは難しいでしょう。


例えば、引用された先行文献がクレームに記載された発明の構成要件が先行技術に開示されていない旨の主張だけでは、非自明性の拒絶理由を克服できるかどうか怪しいところです。なぜ、上記のように言えるのかが大切です。


例えば、クレームに記載された発明と引用された先行文献と文言ごとに対比させたクレームチャートを作成して、そのクレームチャートを用いて米国特許弁護士に説明し、どの構成要件が先行文献に開示されていないか明確に示すべきです。

③自己に不利な分析

非自明性の欠如に関する拒絶理由を分析する過程で、出願人自らを不利にする分析結果が出てしまっても、その結果自体は特許弁護士に詳細に説明する必要はありません。それはアメリカの特許制度において、ディスカバリという制度や禁反言とする自己の認定が強く働く恐れがあります。後々の訴訟までに発展することも加味して、自己に不利になってしまうような情報は出願人から発信しないようにするべきです。(特許弁護士に向けた発信のみに限りませんが)

④宣誓書の提出

副次的な証拠をUSPTOに提出するときは、規則1.132の宣誓書を提出しなければなりません。規則1.132の宣誓書は、審査官による拒絶理由を否定するための証拠として提出する書面です。この書面には、出願人の主張が正しいことを認める何人であっても署名することができます。


したがって、署名する人自体は、出願人あるいは発明者自身、出願人あるいは発明者の同僚、第三者である専門家などであってもよいとされます。ただし、拒絶を克服するための証拠を提出するという目的に照らして考えると、署名する人物はできるだけ客観的な立場である者の方が効果的であると言われています。


宣誓書に記載されている内容は、客観的な事実に基づいた内容であることを求められます。弁護士の陳述は証拠しては認められない。


宣誓書には以下の事項を含みます。
★事実証拠(クレームに記載された発明と比較例の実験データなど)
★見解(宣誓者が事実証拠に基づいて考えた事項)
★中立て

事実証拠は、クレームに記載された発明が予期せぬ効果を有することを示す先行文献の組み合わせただけの発明とクレームに記載された発明との比較実験の結果、商業的成功を示す発明品の販売数、長期間未解決のニーズを示す刊行物などを用いることができます。