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アメリカ特許法103条、非自明性とは何か、日本の特許法の進歩性とは何が違うのか

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(1)103条の概要

①改正法での非自明性

クレームに記載された発明が102条によって、先行技術と同一でああるとして、新規性がないと拒絶されなかったとしても、先行技術から通常の技術者であれば簡単に想到できる発明だとみなされた場合、その発明は特許を受けることができません。通常の発明者が容易に想到できると判断されたことを自明であると、一般的にはいいます。


アメリカ特許法103条に規定されている先行技術とは、必ずしも102条の先行技術とは明示されているわけではありません。しかし、先行技術という文言はその前の「発明が102条に述べたように全く同一のものとして開示または記述されていないとき」という規定を受けているため、103条に規定されている「先行技術」は102条に規定される「先行技術」と同一であると解釈されるべきです。


102条の規定は必ずしも発明の開示に関連しない規定を含んでいますが、103条の先行技術となるのは、102条(a)(1)、(a)(2)に規定されている先行技術になります。また、先行技術の日付は、102条で規定されているものと同じ扱いになります。

102条(a)(2)に規定されている先行技術とは、「公開され又は公開されたものとみなされた出願に記載され、その特許又は出願が他の発明者を記名しており、かつそのクレーム発明の有効出願日前に有効に出願されていた発明」となりますが、これも自明の根拠となります。


実はこの規定がアメリカの特許制度の大きな特徴であり、日本の特許法とは異なります。102条(a)(2)は、日本の特許法29条の2に該当する規定でありますが、日本の特許法の29条の2に該当する先行文献は進歩性の欠如の根拠として引用されることはありません。


102条(a)(1)に規定されている先行技術であっても、クレーム発明の有効出願日前1年以内にされた、発明者、共同発明者または冒認者によってされた開示は非自明性の根拠とすることはできません。この1年間がいわゆる、グレース・ピリオドに該当します。


また、102条(a)(2)による先行技術とクレームに記載された発明が、その発明時において同一の発明者によってなされたものか、あるいは同一人に譲渡されるべき義務があるときは、拒絶の根拠とされることはありません。


研究開発の実態では、複数の開発者により互いに密接に関連した発明群が生み出されるものです。少しずつ異なる発明群の発明者が多いですが、そのような発明を引用しても同一企業の他の出願を拒絶してしまうと、研究するインセンティブが損なわれてしまうから、その配慮していると思われます。


つまり、同一発明者による発明は102条(a)による先行技術として非自明性の根拠となることはありません。また、法律的な義務で、密接に関連した発明群が発明者の雇用主である企業に譲渡される場合も、拒絶理由の根拠とすることはできません。

②旧法での非自明性

 2013年3月16日以前に有効出願日を有する係属中の特許出願および旧法化で付与された特許に対しては、旧法が引き続き適用されます。また、旧法に基づいて付与された特許の有効性は、旧法の非自明性の基準に基づいてこれからも判断されたことになる。


改正法の103条と旧法の103条は、条文の構成は違いますが、内容的には大きくちがいません。しかし、旧法では、102条の規定が複雑な先発明主義に基づく、規定であったため、根拠とされる先行技術が大きな問題になります。


旧102条が規定している規定は、必ずしも発明の開示に関連しない規定を含んでいたが、旧103条の先行技術となるのは、前記規定を除外した旧102条(a)。(b)、(g)。(e)にいう先行技術である。また、先行技術の日付は、旧102条での扱いと同じになります。


旧102条(e)に規定されている先行技術とは「発明日前の他人の出願に係り、公開された出願、又は特許を取得した発明」ですが、当然、これも自明の根拠になります。


旧102条(c)および(d)に規定されている先行文献は、一般的に103条の拒絶の根拠とはなりません。これらは、発明者としての権利が喪失することを規定したものになります。


旧102条(e)、(f)又は(g)による先行技術とクレームされた発明がそれらの発明時において同一の発明者によって所有されているか、あるいは同一人に譲渡すべき義務があるときは、拒絶の根拠とはなりませんでした。これは、現行法の扱いと同じになりますが、現行法の102条(b)(2)(C)に該当する規定は旧103条(c)に規定されていました。


このように、同一発明者が創作した発明は、旧102条(e)、(f)又は(g)による先行技術として自明性がないと判断するための根拠として使うことができません。また、密接に関連した発明群として、発明者の雇用主である企業に譲渡される法律的義務があるときも、拒絶理由の根拠とはなりません。


なお、1999年改正法以前では、旧102条(e)は、103(c)に含まれていませんでした。そのため、102条(e)に該当する先行技術が拒絶理由の根拠として引用されることがしばしばありました。1999年に特許法が改正されたので、上記の問題が解消されました。

①判断基準

 非自明性の判断基準は、グラハム・ディーレ判決によって基本的な枠組みが確立されました。その後、KSR判決によって少し修正されました。KSR判決では、グラハム・ディーレ判決によって示されたTSMテストを硬直的に適用すべきではないとし、より柔軟な判断基準を確立したことになります。

非自明性の判断には次の手順で行われます。
 1.事実調査を行い、
 2.一応自明の判断

(2)事実調査

①事実調査とは

 発明が自明であるか否かの客観的な判断基準の基本的な枠組みは、グラハム・ディーレ事件(Graham v. John Deere Co., 383U.S1, 148 USPQ 459(1996)) の判決で述べられています。

 グラハム・ディーレ事件の判決においては、基本的に自明性は「事実調査」に基づく法律問題であるとされています。

 事実調査とは、以下の手順で行われています。
1.先行文献に開示されている範囲を特定する
2.先行文献に開示されている範囲とクレームに記載された発明との差異を確かめる
  3.その技術分野における当業者の水準を解明する

①先行技術の内容を特定

Ⅰ.サーチの範囲

 事実調査における先行技術の内容の特定にあたって、まずクレームされた発明を把握し、出願人が何を発明したのかを把握することから始まります。クレームされた発明の範囲は、明細書と一貫した、もっとも広い合理的な解釈によって決定されます。


 審査官は、クレームされた発明を把握した後、何をサーチし、どの範囲をサーチすべきかを決定します。サーチすべき対象については、クレームされた主題をカバーするだけでなく、後にクレームされることが予想される特徴をカバーするものとされている。サーチすべき範囲については、出願人が発明を完成する努力を行った分野、または出願人が解決しようとした課題に合理的に対応する範囲で行われる。

Ⅱ.類似先行技術

 非自明性を否定する根拠となる先行技術は、類似先行技術でなければなりません。初期の判例「Hotchkiss v. Greenwood, 52 U.S 248 (1850)」では、「その主題が関係する技術分野の当業者にとって自明である」とき、その主題は非自明性がないとされた。


つまり、自明性がないとする根拠となる先行技術は、審査官が仮定した当業者がその課題を解決するために調査するであろうと予想される範囲でなければなりません。当業者が調査するであろう範囲に属する分野の技術を類似先行技術と呼びます。また、類似しているかどうかかの判断基準を、類似・非類似技術ドクトリンと呼びます。


USPTO・審査官による技術分類は、「類似性」または「非類似性」の証拠となり得るが、構造および機能の同一性あるいは差異がより重要視されます。例えば、構造上の同一性および機能に重複がしていると判断できるとき、その先行文献が属する分野は出願人の発明の分野と合理的に関係がある場合が多いからです。

③クレームに記載された発明と先行文献に開示されている技術との差異を認定

事実調査において、クレームに記載された発明と先行文献に開示された先行技術との差異の認定は、MPEP2111及びMPEP2141.02に記載される要領で行われます。クレームに記載された発明の範囲の特定は、明細書と一貫した、最も広い合理的な解釈によって、決定されます。この解釈は、「Philips v. AWH Corp., 415 F. 3d 1303, 75 USPQ 2 d1321 (Fed. Cir.2005)」の判決において、広く認識されました。


発明の範囲を特定するにあたって「最も広く」解釈されるとしたものは、特許を付与された後に、審査時のクレームが解釈された権利範囲より、広く解釈されてしまう危険性を低くするためです。また、「最も広い合理的な解釈」は、その分野の当業者が到達し得る範囲で解釈できるものでなければなりません。


クレームに記載された発明を全体的に考慮されます。すなわち、クレームに記載された発明と、先行文献に開示された技術の差異が自明であるか否かを問題にしているわけではありません。結局、発明全体が自明かどうか問題になるのです。これを「as a whole要件」と呼びます。


例えば、発明を要約して権利範囲を確定し、非自明性を判断することは、as a whole要件による分析ができないので、好ましくないとされます。


また、その発明を想到するに至った課題の発見も、as a whole要件の一部に含まれます。すなわち、その課題に対する解決が簡単なものであっても、その課題の発見の困難性も含めて、自明であるか否かを判断されます。なお、課題の発見を主張するときには、出願人は宣誓書または明細書に基づく説得力のある理由を主張をすることが必要になります。


開示されている固有の特性も、as a whole要件の一部に含まれます。すなわち、自明を判断するため発明を全体として輪郭化するとき、クレームに記載さる主題のみならず、明細書に開示されかつその主題に固有の特性を含めて検討します。例えば、化学物質の非自明性を審査するとき、その化学物質および特性も含めて全体として検討されることになります。

④その技術分野の当業者水準とは

その技術分野における当業者の水準は、自明性の有無に関する判断基準となるものになります。当業者は、発明が完成された時点の、その発明の技術範囲における平均的な知識を有する仮想的な人物になります。当業者の水準をどこのように考えるかという、以下の事項を考慮して判断されます。

★その技術分野が解決すべき課題
★さらに解決すべき課題に対する従来技術の課題
★技術革新の速さ
★その技術課題解決の難易度・複雑さ
★その技術分野において従事している労働者の教育水準

さらに、当業者は、通常の創作能力を持ち合わしているとされます。当業者は人であって、自動装置ではないとします。また、審査官は、当業者の仮想的なスキルと知識を想定するために、審査官自身の経験や専門性に技術専門性を考慮してもよいとされます。

(3)一応自明の判断

審査官は、103条に基づく拒絶理由を通知するとき、証拠を提示して、「一応自明」であることを立証しなければなりません。「一応」とは、「もし出願人による反証がなければ、理性的な者を確信させるに足りる程度」を意味します。したがって、。審査官が「一応自明」を立証したとしても、出願人は反証によりを覆すことができます。


また、「一応」とは、出願人より特段の反証がないのであれば、出願人は審査官の言い分を認めたということを意味していると考えたほうがいいのです。一方、審査官が「一応自明」を先行文献から証明できない場合は、特許を付与する旨の通知を行います。

KSR判決で明らかになった自明基準

発明が自明であるか否かの判断は、2007年に最高裁から下されたKSR判決「KSR International C. v. Teleflex Inc. 550 U.S. , 82 USPQ 2d1385 (2007)」を基にされています。行われます。


KSR判決とは、従来のグラハム・ディーレ判決で示された基準を自明の判断基準のための一般的な枠組みとして再認定した判決です。その一方で、表示-示唆-動機テスト(TSM test)を過剰に硬直的かつ形式的に適用することは誤りであると、結論付けた重要な判決になります。

KSR判決において、最高裁は、「従来から知られている要素の公知の法王による組み合わせは、それが予期可能な結果以上のもの生み出さない限り、自明である。」と述べました。この考え方が自明の範囲を決める最も基本的な考え方になります。


例えば、設計インセンティブや市場の圧力は、その同一の技術分野または異なる技術分野において、設計変更を促進するきっかけになるものです。当業者であれば「予測可能」な設計変更をしたところで、自明であるとみなされる範疇になります。つまり、その改良が単なる設計変更ではなく、当業者のスキルを超えることとで、初めて自明ではないと非自明性が認められるのです。


このように既に知られている先行技術の単なる組み合わせが自明か否かを判断するとき、その組み合わせ既知の先行技術の「予測可能な使い方」であるかどうかが問われることになります。

②非自明性の判断

審査官は、グラハム・ディーレ事件の判決に基づく事実調査を行った後、クレームに記載された発明が、当行者にとって自明の範囲であるか否かを審査します。この時の先行技術はその文献自体に限られず、当業者が理解できるものもすべてを含みます。


したがって、先行技術は、クレームの全ての構成用を開示または示唆している必要はありません。非自明性を否定するには、1つの先行文献だけであっても問題はありません。ただし、審査官は、先行技術とクレームに記載された発明の差異が当業者に自明である理由を必ず説明する必要があります。


グラハム・ディーレ事件の判決以来、非自明の拒絶の根拠としてTSMテストを用いた自明性の認定が行われてきました。TSMテストとは、当業者が先行技術の一部を変形・変更するか、またはいくつかの先行文献を組み合わせることで、クレームに記載された発明に到達するようなことが推測できる、教示、示唆または動機が先行技術に存在しているとき、その発明は自明であるとするという考え方です。


しかし、KSR事件の判決では、TSMテストを過剰に信用して、自明性の判断をしてはいけないとしています。つまり、TSMテストに囚われないで、審査官は、他の基準を採用してもよいのです。TSMテスト以外の判定方法は後述に詳しく書きます。


自明性の判断を行った結果、以下のいずれかに該当する場合は、その発明は自明であり、特許を受けるには至らないとされます。

1. 既知の技術の組み合わせに過ぎず、予測可能な結果しか生み出せないとき
2. 既知の構成から他の構成への単なる置換し、予測可能な結果しか生み出せない
3. 類似装置の改良方法と同一の方法で改良したに過ぎない
4. 既知の装置への既知の技術を適用したに過ぎず、予測可能な結果しか生み出せない。
5. 「試みることが予測可能」、つまり、合理的な成功への期待をもって、限定された数のうち予測可能な解決方法を選んだに過ぎない。
6. 設計変更インセンティブまたは市場圧力に基づいて、同一分野または異なる分野における当業者にとっては予測可能な設計変更を促しただけに過ぎない
7. 当業者が先行技術を変形するか、またはクレームに記載された発明に到達するように先行技術同氏を組み合わせることが、教示、示唆または動機が先行技術に存在している

(4)自明性の範囲を決定づける判断基準

①TSMテスト

出願人がクレームに記載した発明が、複数の先行技術を組み合わせるか、または先行技術の一部を少し変形・置換することによって生み出されることを、先行文献に既に教示、示唆または根拠があるとき、その発明は自明であるとされています。これをTSMテストといいます。TSMとは、教示(Teaching)、示唆(Suggestion)、動機(Motivation)の3つの頭文字をとって名付けられました。


審査官は、その技術分野における当業者が、その審査に係る出願の発明者が提示する課題に対して、どのように解決するのか、判断することが予測されるか判定します。複数の先行技術によって開示されている教示の間に矛盾があったとしても、どちらか一方の文献が他方の先行文献を信用できないとすることが、その当業者にとって判断できるかどうかを考慮して、総合的に審査することになります。


また、審査官は、単に複数の先行技術を組み合わせることができるというだけで、発明は自明とは認定できません。複数の技術を組み合わせる動機があるか、否か、も考慮された上で自明であるか否かを判断されます。先行技術の組み合わせの結果が当業者の予想する効果しか得られない場合には、組み合わせる動機があったと認定されます。


具体的には、電池の出力特性を向上させるために、Aという技術と、Bという技術があって、AとBを組み合わせて電池の出力特性をさらに向上させることを目的とした発明であれば、それは当業者が簡単に思いつく範囲、相当容易と判断されて自明であるとされるでしょう。


ここで、AとBを組み合わせたことで、電池の出力特性の効果だけでなく、他の効果も例えば、電池の寿命を延ばす効果などがあった場合、そのAとBの組み合わせにより電池の寿命が延ばす効果が当業者にとって想像できなかった場合には、自明ではないと判断されます。


また、先行技術として、Aと、Bと、Cと3つの技術が独立して既知であったとしも、AとBの相乗効果を狙い、AとBが単純に組み合わせることができない場合に、さらにCの組み合わせることで、AとBがともに組み合わせることができるようになった場合には、自明であるとは言えないとされます。


他にも自明性についての考え方はいろいろあって、審査官の判断に大きく依存することが避けられません。特に、組み合わせる技術分野の範囲の認定も、審査官の判断にゆだねることになります。例えば、発明者が電池の製造装置を改良しようとしたときに、電池の分野ではなく、他の分野では一般的に使用される改良方法を用いたとき、その当業者にとって予想できる範囲に該当するのか、否か、審査官の判断により、出願人は審査官の自明であると判断した場合には、それを覆すように様々な観点から審査官の判断を覆していなければなりません。

②合理的な成功への期待

先行技術は、当業者が合理的な成功への期待がある場合には、実際にその組み合わせが実際に存在しなくても自明性の根拠となります。自明性は完全な予測可能性を必要としませんが、少なくともある程度の課題解決の合理的な仮説が必要です。合理的な成功への期待がない旨を示す証拠は、発明が自明ではないという主張の根拠となります。なお、予想可能性の仮設が建てられるのか否の判断は、審査されているタイミングではなく、発明を完成させた時点を基準に判断しなければなりません。


例えば、AとBと組み合わせることができれば、電池の出力特性があがることが見込まれているのに、実際にはAとBの組み合わせは実現不可能である場合があるかもしれません。ここで、ではCという技術を用いると、A+Bが組み合わせることができるようになったので、クレームの記載には、A+Bと記載されていました。


発明の完成時にA+Bというものは存在しないので、クレームに記載された発明は新規性があると言えるでしょうが、実現できなくても自明であると判断されます、これはA+Bの組み合わせが合理的な成功の仮設が建てられていたためです。A+Bを組み合わせることにハードルがあって、それにCという構成を足して、A+Bの組み合わせが実現できたのだから、特許される発明は、A+B+Cとなるのです。

③クレームの全構成要件を考慮

クレームの記載によって限定された構成要件を考慮して、自明であるか否かがが審査されます。審査官は、クレームに記載されている構成要件の一つが意味不明な記載になっていた場合であっても、その構成要件は無視することができません。


もしクレームの構成要件が複数の意味や解釈を持ってしまっていた場合でも、審査官は、少なくとも1つが先行技術を根拠にして、特許を与えるべきではないと判断したならば、クレームが不明確であると認定し、ある程度審査官が発明をどのように捉えたのかを明示した上で自明性を否定しなければなりません。このような場合には、112条第2パラグラフ基づく拒絶理由と、自明性について103条に基づく拒絶理由を提示することができます。


もし、審査官がクレームの記載が全く捉えることができない場合には、クレームは不明確であるとされ、112条第2パラグラフのみの拒絶理由のみを提示し、非自明性に関しては判断を行わないとしてもよいのです。クレームの意味を論理的に仮定し、この過程に依存して、103条の判断を行うのは適切ではいと判断した場合は、出願人に発明の記載を明瞭にさせてから、改めて自明性について判断した方が審査を迅速に進められるからです。


また、審査官は、明細書や図面の中に表現されておらず、クレームの中にサポートされていない構成要件も、非自明性を判断するにあたって考慮しなければなりません。

④先行技術に記載されていない根拠

先行技術を組み合わせるか、または変形することの動機となる根拠は、必ずしも先行技術に明確に記載されている必要はありません。審査官が当業者なら組み合わせることができるだろうと、先行技術の記載から予測できればそれでよいとされます。当業者が有している知識の認定は審査官によりますし、同技術分野における判例によった他の発明者の主張も当業者の知識の認定において論理付ける根拠としてもよいのです。


審査官の判断にゆだねられることで曖昧さはいつまでも消えませんが、先行技術を組み合わせることへの最も強力な動機は、課題解決に求められる効果が生み出されるであろうという期待です。つまり、審査官は、先行文献の組み合わせが先行技術に示唆されていなくても、その組み合わせによる結果が強く期待(予測)されているという場合にも、自明であるとする判断することができます。


また、先の判例の事実がかなり類似している場合に限って、審査官は判例に基づく根拠を使用することができます。審査官が、判例を持ち出す機会に多いのは、設計変更に関する場合です。例えば、具体的には、クレームに記載された液晶ディスプレイなどの表示装置のサイズが、拒絶理由の根拠とされた先行文献には開示されていなかったので、その旨を先行文献とクレームに記載された発明と構成差であることを主張したとしましょう。(実際には、この程度の差を主張することは無謀だとは分かっていますが。) 審査官は、過去の判例において、表示するコンテンツや表示装置が設置される場所に応じて表示装置のサイズを変更することは、単なる設計事項に過ぎないとして非自明性を否定した、過去の判例で判決されたことがあることを根拠として、同じように非自明性を否定してくるケースは多くあります。


アメリカの特許法は判例法であり、過去の判例に基づき、法律が構築されていきます。したがって、審査官による判例に基づいた非自明性の否定は難しいことが予想されますが、もし出願人が判例の事実と異なるある限定要素の重要性を立証したときには、その判例のみに依存して非自明性の拒絶することはできないとされています。

⑤数値範囲による非自明性の主張

クレームに記載された特徴的な部分が数値範囲であった場合で、かつ、先行技術に開示された数値範囲と重なる場合、一応自明されます。その理由は、先行文献と数値範囲のみが異なる場合、後の出願に係る発明の数値範囲は、先行文献に関する数値範囲の実施可能範囲または最適解の選択・発見にすぎず、発明としての創意がないと判断されてしまうためです。特に、先行文献の数値範囲が広く設定され、審査に係属している発明の数値範囲の方が狭く場合にはなおさらで、いくら先行文献よりも効果が向上されていようと、同じ効果が向上を目的としているのであれば、自明であると認定されます。


日本の特許実務では、数値範囲に関する特許については、実験結果のみを根拠にその進歩性を主張することができますが、一般的にアメリカでは、実験結果は実施可能要件を満たす根拠となるだけで、非自明性の根拠とすることはできません。つまり、日本よりもアメリカの方が数値限定の特許が認められにくいといった傾向があるように思います。


アメリカの特許制度で、数値範囲の特許を認めさせるためには、その数値範囲が特定できる根拠を明細書に記載しておかなければなりません。なぜ、その数値範囲をクレームに記載したのか、実験結果のみを根拠とするのではなく、科学的に論理的な根拠があることを要求されます。


したがって、米国特許の実務では、数値範囲が特定できる理由に何かしらの臨界的意義を明細書あるいは意見書でしっかり説明できなければ、数値限定の範囲で特定するよりかは、新たな構成要件の追加する補正を行うことの方が権利化を早く進めることができるでしょう。