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特許実務com Patented!!

社畜だけども弁理士試験挑戦中。2015年4月-6月はアメリカ特許実務研修中

112条(a)で規定されている3要件、記述要件、実施可能要件、ベストモード要件

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photo by agirregabiria


アメリカに出願するときに準備しなければならない明細書について、アメリカ特許法112条(a)では、次のように規定しています。
「明細書は、その発明のまたは最も関連性が近い分野の当業者がそれを使用し製造することが可能となるように、発明と、十分、明瞭、および簡潔に、かつ正確な用語をもってそれを製造し使用する態度およびプロセスの記述を含み、発明者または共同発明者が最善と信じる発明の態様を提示しなければならない。」

つまり、アメリカ特許法112条(a)では、明細書にはどのような内容記載されていなければならないか、次の3つの事項を記載要件として含ませなければならない旨を規定しています。

★発明の詳細な記述(記載要件)
★発明を製造する方法、使用する形態およびプロセス(実施可能要件)
★発明を実施するために最良となる形態(ベストモード)

(1)発明の記述要件

①記載要件

記載要件とは、出願人が発明を他の発明や技術と区別できるように明確に記載しなければならないことをいいます。

アメリカの特許制度において、記述要件を出願人に要求する本質的な目的は、出願人が独占的に使用したい、特許権として権利を取得したいと願う、クレームに記載した発明の情報を明確に第3者に伝達するためです。

他の目的は、出願人がクレームに記載した発明を第3者でも再現できるように公にすることであす。

つまり、記述要件とは、特許権という独占的な使用権を出願人に与えることの代償として、特許権者には明細書にその発明が第3者に再現可能なように適切に記述させることで、技術の利用促進を図り、さらなる技術的な発展を促進させることを目的にしています。


この112条(a)に規定されている記載要件を満たすためには、出願人がクレームに記載された発明について、その発明が完成した日において所有していた情報を明細書に記載できなければなりません。言い換えれば、記述要件を満たすことは、出願人は、最初に提出した明細書によって、クレームに記載された発明が適切に裏付けられていなければなりません。

出願人はクレームに記載された発明について文章、図面、表、および数式などを用いて具体的に記載しなければなりません。明細書には、発明者がクレームに記載された発明の実施例や、どのように発明を実施したのかそのプロセス、そしてその発明が意図した目的のために作用すること記載することによって、その発明を発明者ではない第3者でも実施できるように記載します。

②出願時に記載されたクレーム

出願人が出願した時点において、クレームに記載された発明について記述要件が満たされているという推定が働きます。審査官が記述要件を満たさないとして、112条(a)に基づく、拒絶理由を出願人に通知するときは、クレームに記載された発明が明細書に記載されていないとする根拠を合わせて示さなければなりません。これは審査官が負っている義務であり、その根拠がないと審査官は記述要件を満たしていないと通知することができません。

③中間処理の過程で補正されたクレーム

132条の規定により、出願時に記載された明細書や図面、クレームに新規事項を追加することはできません。つまり、最初に出願された時の発明の主題を超えて、新たな情報を追加することは認められません。


中間処理の過程で補正されたクレームや新しく追加されたクレーム、または補正されたクレームは、出願時に提出した明細書や図面の範疇に限定されます。出願時に記載されている範疇を超えて補正することは、新規事項の追加に該当し、新たに補正の制限違反になって拒絶理由を受けます。


また、クレームに記載された構成要件を削除したことによって、クレームに記載された発明の範囲が広くなった場合も記述要件違反となることがあるので注意が必要です。

④記述要件が問題となる場合

出願人がクレームの補正を行ったとき、クレームに記載された発明が出願時に提出した明細書によって裏付けられていない、と審査官が判断した場合に、記述要件の違反の拒絶理由が通知されます。

クレームを補正せずとも明細書を補正したことによって、クレームの範囲の解釈に影響を与えてしまった場合にも、記述要件の違反となりえます。

また、その特許出願が120条に基づいて、先の米国出願の出願日の利益を主張する米国出願である場合において、優先権の基礎とした先の出願の明細書が記述要件を満たしていない場合、記述要件の違反とはなりません。


119条(a)または(e)に基づいて、外国の優先日の利益または仮出願の出願日の利益を主張する米国出願において、その外国出願または仮出願が記述要件を満たしていないなら、それも記述要件の違反となります。

つまり、いわゆる優先権の利益を受けられるのは、その発明が先の出願において112条(a)の要件を満たす程度に記載されている場合に限られる。

⑤出願人の反論

審査官から、記述要件を満たしていないとして、拒絶理由通知を受け取ったとき、出願人は次の方策を取ることができます。
★補正
★一部継続出願(CIP)

クレームに記載された発明について、明細書の中に裏付けがないと判断された場合、または新規事項を含んでいると判断された場合、その指摘を受けた記載を補正によって削除すれば、その拒絶理由を回避することができます。


どうしても補正によって拒絶を回避することができない場合には、新規事項の追加することが許容されている、一部継続出願の出願を検討することもできます。ただし、追加された新規事項の部分について、新規性等の基準は、親出願の出願日まで遡ることは許されず、子出願である一部継続出願の出願した出願日となります。

(2)発明の実施可能要件

①実施可能要件

実施可能要件とは、発明者ではない第3者であっても、その分野における通常の知識を持ち合わせていれば、その発明を製造し、使用できる程度に明細書の内容を記載することを求められることです。


実施可能要件を満たしているかどう判断も、明細書の記載内容がクレームに記載された発明について、当業者であれば、明細書を読むことで、そのクレームに記載された発明を製造し、利用することができるか否かに基づいて判断されます。


つまり、実施可能とは、当業者が新しく実験をすることなしに、明細書の記載を見ながらそのクレームに記載された発明を再現できることです。発明の再現するための難易度は特に問われず、再現性はもちろん100%ではなくて、20%程度の再現性があれば問題ないとされています。


具体的には、クレームに記載された発明が化合物に関する発明であって、その化合物をどのように製造するかを記載する必要があります。実際に発明者がそのクレームに記載された化合物を製造するために、ステップA、ステップB、ステップCの手順を踏んでいたのにも関わらず、明細書にはステップBの手順が省略されていれば、いつまで経ってもクレームに記載された化合物を製造することはできませんよね。この場合、その明細書は当業者であっても発明を再現できず、その明細書は記載が不十分であったとし、実施可能要件を満たさないと判断されます。

②過度の実験

 明細書の実施可能要件を満たす判断基準に、当業者がその明細書通りにクレームに記載された発明を実施できるか否かを問われますが、その実施は必ずしも100%の再現性が必要な訳ではありません。

当業者が過度な実験を行わずとも、その発明を実施できれば、再現性は100%でなくても良いとされています。ここで、どのような実験が過度な実験に該当するのかは、以下の項目が考慮されて判断されることになります。


★発明の本質
★当業者の実験レベル
★発明・先行技術の難易度
★クレーム記載された発明の範囲
★その分野の予見性のレベル
★発明者が提供した明細書量
★実施例・実験例の存在
★開示された内容に基づいて発明を製造し、使用するために必要な実験の量


当業者にとって過度な実験が必要になるか否かの判断には、その技術分野における当業者の実験レベルやその発明および先行技術の難易度などが考慮されます


当業者の実験レベルの推定または先行技術の難易度の特定するために、出願人および審査官はクレームに記載された発明の本質をしっかりと捉えなければなりません。


そのため、出願人はクレームに記載された発明の範囲を広く書きすぎると、その発明の本質というのがぼやけてしまう結果になり、実施可能要件のハードルも上がると考えて良いでしょう。


また、当業者の実験レベルやその発明および先行技術の難易度は、出願人よって明細書の中で言及することができます。例えば、実施例の記載において、高分子の重合の反応を明細書に記載するときは、すべて記載する必要は必ずしもなく、「当該分野で一般的に使用されている重合反応であればよい」と加えることができます。ただし、「一般的に使用されている」と記載することで、その記載内容について、新規性がないことを出願人自ら自認してしまっているので、その記載内容をもって特許性を主張することはできません。


また、実施可能要件については、クレームの一部であればよいわけではなく、独立クレームおよびその独立クレームに従属されている従属クレームにおいても同様に求められます。


実施例は、必ずしも実際に実験データによってその効果があることを裏付ける必要はありません。実際の実験データでなくても、発明者による予測であっても問題なく、明細書に実施可能なように書かれていれば、実際の発明者による実施例を記載する必要はありません。

しかし、当然、発明者による妄想を明細書に書くことは許されないので、未開発な技術分野の画期的な新技術については、発明者による実験例および実験結データが求められていると、考えられているし、一般的に実施例は多くあることにこしたことはありません 。


また、1つの実施形態しか記載されていなからといって、レームの範囲を狭くするように要求されるとは限りません。明細書に記載されているのが、1つの実施形態でしかない場合であっても、広い保護範囲が確保されたクレームで権利化されることもあれば、保護範囲が狭くなってしまうこともあります。


つまり、権利範囲は当業者が1つの実施形態であっても、クレームに記載された範囲の全体を推定できるか否かで判断されます。必要とされる実験の量は、その発明を第3者が実施するのに過度な実験が必要であったか否かを判断するために、重要な要因となります。


したがって、出願人が明細書を準備するとき、出願人は、第3者がその発明を実施するのに、どれくらい実験量をこなさなければならないのか、を常に意識しておかなければなりません。


さらに、出願人は、明細書中にその発明を実施するための実験を遂行するために十分に記載されているか確認しなければなりません。ただし、発明を実施するために必要な実験量が多かったとしても、それが単なる通常の日常業務でしかない場合は、過度な実験が要求されるとは認定されません。


また、112条(a)における実施可能要件は、101条の有用性の要件とは、異なります。101条の有用性と112条(a)の実施可能要件と何が異なるとかというと、101条の有効性では発明の用途を開示すればよいだけであるのに対し、112条(a)はその発明がどのように使用されるのかを開示まで求めていることです。


したがって、明細書に記載内容が101条で求められる有用性を開示していると判断されたとしても、112条(a)で求められている実施可能要件が満たされているとは言えません。


例えば、出願人が特定の病気に対して有効な製薬をクレームに記載してあって、この製薬が明細書に特定の病気に有用である根拠がしっかり記載されていれば101条は満たされています。しかし、当業者がその発明を実施するための実験例を記載していなければ112条(a)の記載要件違反に該当します。


審査官は、拒絶理由として実施可能要件が欠如するためには、その合理的な根拠を拒絶理由通知書(Office Action)に記載されていなければなりません。


審査官により実施可能要件が欠如されている根拠が示されると、そのときから実施可能である旨を立証する責任は出願人に転嫁されます。クレームに記載されている内容が、その発明を実施するにあたって、その発明に不可欠な要素が記載されていないとき、112条(a)に基づく実施可能要件の違反とする拒絶理由があると判断されます。


ここでいう、発明を実施するにあたって不可欠な要素とは、発明の実施に必要な要素、工程、または要素間の構造的な関係などが考えられます。例えば、テレビに関する発明であれば、映像が映し出される構成になっていなかったり、電池に関する発明であれば発電能力を有さない場合に、不可欠な要素が欠けてしまっていると判断されます。

③実施可能要件違反に対する出願人の反論

審査官がその出願について実施可能要件違反であるとする推定について、出願人が反論によって覆すことができます。この実施可能要件違反を克服するためには、次のような方法をとることになります。
★説得力がある反論
★適切な証拠の提出


出願人は、クレームの記載範囲が広すぎる場合は、明細書の記載に基づいて実施可能な範囲に限定する補正を行い、説得力のある主張ができることをまず考えなければなりません。

ここで挙げられる証拠とは、クレームに記載された発明が実施可能である旨の規則1.132の宣誓書、またはその特許出願時に当業者が知り得たものを示す文献などです。規則1.132の宣誓書を提出すれば審査に考慮されますが、その宣誓書がどれくらい信頼されるものかは宣誓書に伴って提出された事実証拠の量によって定まると考えてよいです。


したがって、出願人は実施可能要件を証明する証拠があれば、積極的に提出すればよいのです。


なお、実施可能要件とは、出願時の明細書に記載されている開示内容に基づいて当業者が実施できることを意味します。


ただし、その出願の出願日の後の日付の宣誓書を提出することは可能ですが、審査官は宣誓書に記載された工程、材料および条件を出願当時にその発明が実施できるものと開示された内容を基に慎重に比較されることになります。

実施可能であることを立証するための証拠として、出願日前の日付の文献を使用することはできますが、一般的に出願日以降日付の文献を使用することはできないと考えた方がいいでしょう。ただし、例外的に出願後の日付の文献に基づいて、その出願日前に当業者が出願前または出願時に知り得た内容を立証できます。

(3)ベストモード要件

①ベストモードは無効理由からの除外された

旧法において、記載要件(旧112条)に規定した要件を満たさないことは、特許の無効とされる無効理由の一つに挙げられます。記載要件とは、上で述べたように、記述要件、実施可能要件、ベストモード要件の3つを含むものである。


つまり、ベストモード要件が満たされていなければ、特許の無効になっていました。これまでも特許侵害訴訟で被告がベストモードを故意に開示しなかったとして、特許庁・審査官を欺く意図があったとする主張が認められたことで無効になってしまったことが頻繁にありました。


しかし、ベストモード要件は、日本の特許制度にはない、米国の特許制度特有の要件です。また、ベストモードとは何か、ベストモードであるか否かについては、主観的なものになってしまうので、従来より、その判断が問題になることが多くありました。


また、ベストモードいつの時期のベストモードであるかとすると、発明完成時を基準にするものとされます。すなわち、ここで言うベストモードとは、出願されてから何年か経った後に発明が商品化されたときのベストモードではありません。


そこで、2011年に改正された現行法では、283条(3)が改正され、112条(a)の規定されているベストモードが開示していないことを理由によって特許として認められたクレームが無効にされたり、権利行使不能とされたりすることはないとする例外が追加されました


すなわち、現行法では、ベストモード要件違反を理由に特許の無効を主張することはできません。ただし、記述要件または実施可能要件は、依然として特許の無効理由となります。また、ベストモードは無効理由から除外されたが、ベストモード要件の記載は112条(a)に従来文言のまま残っています。

②ベストモードとは

ベストモードとは、発明者が出願時点の最良と信じる発明の態様のことです。ベストモードは、出願人が完全な発明を開示せずに、その発明について独占権を得ようとする試みを防止するためです。


旧法下でベストモード要件が特許の無効理由となっていたこともあって、審査官が明細書に記載されていた開示がベストモードであるか否かは、通常は知る術もありません。したがって、ベストモード要件を違反する拒絶理由を通知されることはほとんどありませんでした。


ベストモード要件に違反していることは、大抵、特許権として確立された後、インタフェアレンス、訴訟及び他の当事者手続きにおけるディスカバリで判明することになりました。


また、ベストモード要件は、発明のベストモードの開示を要求するものであり、発明の本質とは関係のない事項についてはベストモードである必要はありませんでした。例えば、クレームに記載されていないような日常的な通常業務の詳細を開示していなかった場合でも、ベストモード要件の違反となることはありませんでした。


特許出願において常に具体的な実施例を開示しなければならないとする法定の要件はなかったので、実施例がないからといっても、必ずしもベストモード要件の違反とはなりません。


ベストモードは、例えば、好ましい条件の範囲に含まれるものとして、または優劣を付けずに、一群の化合物に含まれるものとして、記載されていてもよいです。また、複数の実施例のうち、出願人からこれがベストモードですという宣言する必要はありません。明細書に開示がベストモードだと思っている構成が記載されていればそれでいいのです。


また、外国優先権の主張の基礎となる出願におけるベストモードを、後の米国出願をするときに、そのベストモードを更新する必要はありません。つまり、米国以外の外国で最初の出願の後に、さらにその発明を改善し、ベストモードが変わったとしても、ベストモードを更新して米国出願をする必要はありません。


ただし、一部継続出願(CIP)の場合、親出願に記載されていない事項で、子出願で改善された発明については、ベストモードを更新しなければならないとする判例がありました。CIPについては、ベストモードを更新する必要があると考えられます。

③ベストモードかどうかを判どうやって判断するのか

明細書に記載された内容がその発明のベストモードであるか否かは、どのように判断されていくのか、次のステップ通じて判断します。
★発明が完成された時にその発明者がベストモードを知っていたのか。
★ベストモードと開示内容を比較して、その開示内容により当業者がベストモードを実施できるか。

ベストモード要件を満たさないとされていると拒絶理由は、後の補正によっては治癒することができません。


つまり、ベストモードの開示が不十分であった場合、それを治癒するために、本来的に出願時に明細書に記載されているべき事項を後で追加するしか方法ありませんので、新規事項の追加として132条に違反に該当します


発明を積極的に隠蔽する意思がなかった場合、その隠蔽が著しく不正であるとい程度ではない場合にもベストモードではないとされることもあります。要するに、例えば発明者が優れた効果を奏する特定の物質を知っていたにもかかわらずそれを開示しなかたという客観的事実だけで、ベストモードを開示していないことになります。
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