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特許実務com Patented!!

社畜だけども弁理士試験挑戦中。2015年4月-6月はアメリカ特許実務研修中

均等論の適用の経緯、均等論に関する過去の判例を振り返る

http://www.flickr.com/photos/124387535@N03/14135683605
photo by toridawnrector


前回の記事で、均等論に基づく特許侵害について、概要を書きましたが、その均等論がどのような経緯でアメリカの特許制度に根付いてきたのか、学習することは非常に良い機会です。
patentjitsumu.hatenablog.com


今日はこれまでの均等論で争われた判例をいくつか紹介し、均等論の考え方をさらに深く考えて、実務として出願・権利化を行う上で注意しなければならないことについて考えていきたいと思います。

(1)均等論が争われた判決とその変化

①ウィナンズ事件

Winans v, Denmead 1853(均等論の誕生、周辺限定説の誕生)
アメリカの特許制度における均等論という概念は、ウィナンズ事件により初めて認識されるようになりました。

ウィナンズ事件が起きた背景としては、当時、ウィナンズは「円錐台形」の篭を有する石炭運搬車両について特許権をもっていました。この発明の概要は、円錐台形の篭に石炭を投入することにより、石炭を投入される際にすべての方向から掛かる負荷を一定にし、篭を変形させないというものでした。また、負荷が均等にかかるため、作業者にとっても力を与えやすく、車両を軽くすることも発明の効果としてありました。。


一方、被告側のデンミードは円錐台形の篭ではなく、八角錐台形の篭を有する石炭運搬車両を製造し、販売を行っていました。これを知ったウィナンズはデンミードに対して特許侵害訴訟を提起したというのが事件のきっかけでした。

ウィメンズの特許はクレームにはっきりと「円錐台形」の篭と記載されていて、明らかに「八角錐台形」の篭ではなかったため、文言上の侵害は成立しませんでした。


この事件が争われているとき、アメリカでは、特許法が改正され。新たに中心限定主義が採用された特許法が施行されました。中心限定主義は、クレームに記載された発明の本質について問われる考え方で、必要に応じてその権利範囲が柔軟に拡張されるとされたのです。均等論についてもクレームに記載された発明の権利範囲を文言の均等範囲に拡張を認めるものであるため、均等論は中心限定主義に移行しようとする時代の流れにいうまく適合しました。


最高裁判所の裁判長の見解は、クレームに記載した形状だけではなく、ウィメンズの発明を具現化する他の形状(均等物)も保護されるべき、と考えを示した。つまり、その模倣品がクレームに記載されたオリジナルの文言とは多少形状が異なるとして、その発明の原理や作用を模倣する行為であれな、それは特許の侵害になると最終決断を下しました。


しかし、この判決において、数人の裁判官は、今後の裁判において、均等論が権利反の境界がぼやけてしまい、均等論による権利範囲の拡張を認めることは特許権者の権利を過剰に強くしてしまい、公衆の利益を不当に害することになりかねない、との懸念を示したとされています。(現に、このウィメンズ事件をきっかけに、特許権者が均等論に基づく特許権の行使主張し、裁判でも特に争点となることが多くなっていったことは事実です。)


均等論に基づく権利範囲を認める、認めない、の判断は裁判官の中でも見解の相違はありましたが、結局、多数派の意見に従って、最高裁判では、ウィナンズの特許権をデンミードが侵害しているとの判決が下されました。


ウィナンズ事件の後の1870年、均等論に基づく不当な権利範囲の拡張、および裁判の複雑化を恐れた特許庁は特許法を改正し、特に112条のクレームに関する記載要件が修正しました。112条において、クレームの記載要件として、発明の範囲を特別に指摘し、明確にクレームされることが求められるようになったのは、この時の改正から始まりました。また、改正により、アメリカの特許制度がそれまでの中心限定主義から周辺限定主義に大きく方向転換をするきっかけになりました。


中心限定主義から周辺限定主義に舵を大きく切り替えたことをきっかけに、特許権の効力範囲、クレームによる発明の特定がより明確になり、公衆にとっても何が侵害に該当しで、何が侵害に該当しないとする判断が容易になりました。当然、周辺限定主義の下で均等論という概念は一度急速に衰退していくことになったのです。

②グレイバー・タンク事件(均等論の再認識、代替性)

Graver Tank & Mfg. Co et al., v. The Linde Air Products Co,. 339 F. 2d 605, 85 USPQ 328 (1950)
ウィメンズ事件の判決から100年足らず、法改正から80年余り、1950年に争われたグレイバー・タンク事件で、均等論は再び近代特許法の法理として再認識されることになります。

グレイバー・タンク事件では、電気溶接用の合金の組成物の特許権について、その侵害・被侵害が争われました。特許権者であるリンデ・エア・プロダクト社は、アルカリ土類金属のケイ酸塩を含む電気溶接用の組成物の特許権を所有していました。それに対し、被疑者であるグレイバー・タンク社は、ケイ酸マンガンを用いた組成物を製造し、同じ電気溶接を用途に販売を行っていました。それを知ったリンデ・エア・プロダクト社がグレイバー・タンク社の特許権侵害を訴えたのがこの事件の始まりです。



もう一度整理すると、特許権のクレームに記載された組成は“アルカリ土類金属”のケイ酸塩であり、侵害を疑われた組成はケイ酸マンガンです。マンガンアルカリ土類金属には含まれないため、当然、文言上の侵害は成立していませんでした。


ただし、最高裁の判決では、クレームの文言通りではない、明らかな模倣を放置することは、特許権保護の目的をなし得ず、特許権を空洞化し無益なものにするとし、発明を保護するという特許制度の主目的にもう一度立ち返るべきだと述べました。


その主張を基に、最高裁の判断は、溶接用の組成物として、マンガンアルカリ土類金属の代替性があることは、当業者からみて妥当であることを認め、クレームの権利範囲の拡張に値する均等論の適用を認めました。結局、グレイバー・タンク社がリンデ・エア・プロダクト社の特許権を侵害しているとの判決が下されました。


グレイバー・タンク事件は、周辺限定主義の下においてでも、代用性の観点からもう一度均等論による権利範囲の拡大解釈が認められた判決として、知財業界においてまた一つ大きな衝撃を与えました。

③イクジビット・サプライ事件(禁反言の誕生)

Exhibit Supply. Co et al., v. Ace Patents Corp,. 315 F. US 126 (1942)


均等論がクレームの権利範囲を拡張しうる法理なら、均等論と相反する法理、クレームの権利範囲を限定解釈する法理である禁反言についても少し言及しなければなりません。均等論と禁反言この二つの法理は、いくつもの訴訟において争点となってきました。特許権者が主張する均等論と、被告が主張する禁反言とが、近代の訴訟をより複雑化し、裁判の長期化を後押しする一つの要因になっていることは明らかです。


禁反言という概念が生まれたのは、1942年のイグジビット・サプライ事件がきっかけになります。


当時、イクジビット・サプライ社が所有していた特許権は、ピンボールマシーンに使われるスイッチに関する発明で、ピンボールが当たると電流を遮断するスイッチでした。この特許権のクレームには、「テーブルに埋没された導電体を備えている」ことが記載されていました。

イクジビット・サプライ事件では、この「テーブルに埋没された導電体」という文言が権利侵害となるか否かの争点となりました。特許侵害で訴えられた被告側のエースパテント社は、侵害を疑われている製品が「テーブルに埋没された導電体」を備えていないため、イクジビット・サプライ社のスイッチに関する特許権は侵害していないと非侵害を主張しました。


実際に、エースパテント社の製品では、導電体がテーブルに埋没されてはおらず、テーブル上の金属プレートによって支持されている構造でした。つまり、イクジビット・サプライ社は、文言上の侵害ではなく、均等論に基づくエースパテント社の侵害を主張しました。


ところが、侵害を争った特許権の審査過程記録には補正により「テーブルに埋没された導電体」をクレームに限定された記録が残されていました。イクジビット・サプライ社は中間処理の過程において、拒絶理由を回避するために、出願当初のクレームに記載された文言「テーブルに保持された導電体」を「テーブルに埋没された導電体」に補正した経緯がありました。

最高裁判決は、発明者が拒絶理由を回避するために、意見書においても「保持され」と「埋没され」との相違を強調して主張していることから、「保持」と「埋没」相違に関するすべての構造については特許権として放棄しているとみなすことが妥当であると判断し、放棄した部分を均等論によって再度権利として行使することは認められないとして、イクジビット・サプライ社の主張を跳ね除けました。


つまり、このイクジビット・サプライ事件の判例によって、中間処理の過程で減縮補正した場合、禁反言により減縮した範囲には均等論の適用を認めないとする裁判所の方針が決定づけられました。イクジビット・サプライ事件において、権利範囲を拡張しようとする均等論に対抗する法理として、クレームの記載の拡大解釈を抑制する禁反言が近代の特許法の中で認知されたことは大きな衝撃となりました。

④ヒューズ事件(フレキブル・バーの誕生)

Hughes Aircraft Co. v. United States. 717 F. 2d 1351 219, USPQ 473 (Fed,Cir 1983)


均等論の問題をさらに深く論及した判決にヒューズ事件があります。ヒューズ・エアクラフト社は、人工衛星に関する特許を有する特許権者でした。ヒューズ・エアクラフト社が保有している特許権によれば、人工衛星の運転状況に関する情報を地上基地に発信し、運転状況に関する情報を基に地上基地で制御信号を生成し、地上基地から人工衛星のジェットを点火させ、人工衛星の運動方向を制御するものでした。


日本ではとても考えられませんが、ヒューズ・エアクラフト社は、自社が特許として保有する人工衛星と類似した人工衛星を製造していたアメリカ合衆国政府を特許侵害で訴えました。しかし、アメリカ合衆国性婦の製造していた人工衛星は、S/E型の宇宙船であり、情報を地上基地から送っているが、その情報の中に制御信号は含まれておらず、制御信号はあくまで人工衛星内部のコンピュータによって生成されるものでした。


ヒューズ・エアクラフト社の特許は、審査の段階で拒絶理由を回避するためにクレームの記載について補正を行っていました。第1審では、制御信号が人工衛星内部で生成されるため文言上の侵害は成立しないこと、また中間処理の過程で補正を行っていることにより禁反言が働き、均等論が適用されないとの判決がくだされました。つまり、結果としてアメリカ合衆国政府はヒューズ・エアクラフト社の特許権を侵害していないとされました


しかし、連邦巡回裁判所では第1審の判決を覆し、アメリカ合衆国政府の侵害を認定しました。この判決によれば、補正を行ったからといって、画一的に均等論を排除するのは不当であると認めました。均等論は、補正の性質や目的によって広い範囲から狭い範囲まで均等の範囲を柔軟に変動するものであると判断されました。


ヒューズ事件の連邦巡回裁判所の判決において、「補正の目的や本質によって、均等の範囲は、大から小、さらにはゼロの範囲でスペクトルのように変化する」と言及されました。つまり、中間処理の過程で補正され禁反言が生じていても柔軟に均等論を適用させることを認めるといった判決になりました。この概念を「フレキシブル・バー」と呼ばれました。

⑤キンゼンボウ事件(コンプリート・バーの誕生)

Kinzenbaw v. Deere & Co,. 741 F. 2d 383, 222 USPQ 929 (Fed Cir. 1984)

ヒューズ事件の判決が下された翌年、1984年に起きたキンゼンボウ事件では、「フレキシブル・バー」とは相反する「コンプリート・バー」という概念が提示されました。


ディーレ社は農耕器機に関する特許権を保有していて、類似の農業機械を製造・販売していたキンゼンボウ社を特許侵害で訴えました。


ディーレ社が保有していた特許は、地面に溝を掘り、そこに種を植えるという、現在のトラクターの基本特許でした。ただし、このディーレ社が保有していた特許に登録されたクレームには、「土を掘る円盤の半径よりも、溝の深さを調整する計測ホイールの半径が大きい」という限定が記載されていました。


一方、キンゼンボウの製造した農耕器具は土を掘る円盤の半径の方が計測ホイールよりも大きく設計されていました。つまり、ディーレ社とは全く逆の構成になっていました。


連邦巡回裁判所は、ディーレ社の特許の「土を掘る円盤の半径よりも、溝の深さを調整する計測ホイールの半径が大きい」という限定が先行文献に基づく拒絶理由を回避するために補正によって追加されたものとして、禁反言が生じ、均等論に基づくクレームの拡大解釈は一切認めませんでした。結果として、キンゼンボウ社の農耕器機の非侵害が確定した。


つまり、「特許権者が減縮補正を行っていたとき、その範囲外の製品を製造した競業者に対して侵害していると主張することはできない」という「コンプリート・バー」の概念が判決に表れた最初の事件になりました。


コンプリート・バーは禁反言が生じれば均等論による拡大解釈を一切認めないという概念であり、フレキシブル・バーとは完全に対立しました。コンプリート・バーによれば、補正をすれば均等の範囲がなくなる、文言通りの意味にしか解釈されないことになります。


同時期の訴訟で、連邦巡回裁判所は、ヒューズ事件においてフレキシブル・バーの流れを作りましたが、その一方でキンゼンボウ事件では相反するコンプリート・バーの流れを作ったことになります。それからしばらくの裁判では、この二つの概念が錯綜し、判例は一貫性を欠くことになっていきました。

⑥ペントウォルト事件(均等論にオール・エレメント・ルールを適用)

Penwalt Corp v. Durand Wayland Inc,. 833 F. 2d 931, 935 (Fed, Cir 19587)


均等の範囲についての解釈を統一したのが、ペンウォルト事件になります。前述したグレイバー・タンクの事件の判決では、侵害を疑われた製品がクレームに記載された発明と「同一の結果を得るために、実質的に同一の方法で、実質的に同一の機能を果たす」のであれば均等論を認定する、と結論していました。


この判定方法を機能―方法―結果テスト、FWRテスト、あるいはトリプル・アイデンティティ・テストと呼び、このテストは均等の範囲の可否かの判断基準として、グレイバー・タンク事件以降、長らく定着していました。

しかし、均等の範囲の依然として不明確性の問題は残っていました。ヒューズ事件では均等の意義について「全体として均等」のアプローチを提言されていました。「全体として均等」アプローチとは、特許発明の構成要素1つひとつを侵害が疑われている製品の構成要素を比較せずに、「全体としてクレームのすべての限定と相互関係を含めて均等かどうかを判断する」というアプローチ方法でした。


しかし、ヒューズ事件では、「全体として均等」というアプローチが過去の判例と矛盾するのではないかと言った指摘も多くありました。特許侵害が成立するかどうかは、“オール・エレメント・ルール”という基本的な基準によって判断するべきなのに、「全体として均等」というアプローチ方法は、オール・エレメント・ルールと明らかに矛盾していました。


そのため、ペンウォルト事件では、均等論の適用において「全体としての均等」というアプローチが正しいか否かが争点となった判決になりました。


ペンウォルト社が保有していた特許権は、物品の重量と色を認識し、重量と色に応じたコンテナーにその物品を搬出する自動選別装置に関する発明でした。この自動選別装置は果実などの選別を行う際に使われていました。


ところで、この登録された特許権クレームの記載は、大きく2つの手段によって構成されていました。第1の手段は、物品が重量センサから色センサの間に移送されていく間、ずっと物品の位置を監視し、その位置を表す電気信号を出力する手段として記載されていました。また、第2の手段は、重量センサと色センサを経過した後の物品の位置をずっと監視し、その位置を表す電気信号を出力する手段と表現されていました。


一方、特許権の侵害を疑われたデュランド・ウェイランド社の被疑製品には、第2の手段である「物品の位置を示す手段」を有していませんでした。この製品は物品の重量と色を認識すると、このデータ順番を付けてコンピュータ・メモリに格納し、このデータを持って物品を特定する。移送される物品を追尾しているわけではない。


デュランド・ウェイランド社の製品は「物品の位置を示す手段」を持っていないため、文言上の侵害は成立しません。そこで、ペンウォルト社は、「『物品の位置を示す手段』を単にコンピュータ・メモリに置換されただけであり、均等論に基づく侵害が成立する」と主張し、デュランド・ウェイランド社の製品を特許権侵害に該当するとして訴訟を起こしました。


結局、判決では、『物品の位置を示す手段』を構成要素として含んでいないデュランド・アイランド社の製品は非侵害と認定されました。裁判所は、「全体として均等」というアプローチを採用せず、オール・エレメント・ルールによるアプローチを採用し均等論の範囲を認定しました。


つまり、オール・エレメント・ルールを採用したということは、クレームに記載されている構成要素ごとに均等か否かを判断し、均等物含んでいれば均等論に基づく侵害となる考え方です。もし、構成要素ごとに比較を行い、被疑製品の中に均等物が存在しない、あるいはそもそも対応する要素が存在しない場合、均等論侵害は成立することはないとしました。

オール・エレメント・ルールによるアプローチに統一されたことで、均等論に基づく主張を弱体化させたと言われました。その理由は、「全体としての均等」は、多少の構成要素の相違を問題にしないアプローチであり、当然均等論により解釈される拡大範囲が広かったためです。

ワーナー・ジェンキンソン事件(均等論と禁反言の関係性)

Warner-Jenkinson., v. Hilton Davis Chemical,. 41 USPQ 2d 1865 (1997)

均等論を巡り、ヒューズ事件及びキンゼンボウ事件の権利解釈は、特許権者はフレキシブル・バーを主張し、被告はコンプリート・バーを主張し、その決断は裁判長・裁判官の判断に委ねられていた時代がありました。このような権利解釈の混乱にピリオドを打つべく、1997年最高裁までもつれたワーナー・ジェンキンソン事件について判決が下されました。当時の知財関係者・企業はこのワーナー・ジェンキンソン事件の判決に大きな注目を集めており、ワーナー・ジェンキンソン事件は後のフェスト事件につながる、均等論に関する重要な判決になりました。


ワーナー・ジェンキンソン事件の原告ヒルトン・デイビス社は、染料を多孔性の膜にpH6.0~9.0の範囲において透過される染料の濾過を含む純化方法について特許権を有していました。一方、被告であるワーナー・ジェンキンソン社は、同様の方法をpH5.0において透過させる純化方法でした。


被告の方法はクレームに記載された数値範囲を1.0外れているので、文言上の侵害は成立しないのですが、ワーナー・ジェンキンソンが実施したpH5.0がクレームに記載された数値範囲pH6.0~9.0と均等であるか否かがこの裁判の最大の争点となりました。


この裁判で争われた特許権に記載されたクレームの数値範囲pH6.0~9.0は補正により追加されたものであり、上限値であるpH9.0は拒絶理由の根拠となった先行技術を回避するための補正であることを特許権者は意見書において主張していますが、下限値であるpH6.0は補正の理由は明確に言及されていませんでした。


被告の実施条件pH5.0がクレームに記載されている数値範囲pH6.0~9.0と均等であれば、均等論に基づく侵害が成立します。一方、下限pH6.0を補正により追加したこと、つまり減縮補正によって禁反言が生じれば、特許権者ヒルトン・デイビス社はそのpH6.0以下を放棄したことになり、侵害は成立しないことになりました。


気になる最高裁の判決は、ヒルトン・デイビス社の特許権に関して均等論を適用し、ワーナー・ジェンキンソン社の侵害を認定しました。裁判長は、均等論と禁反言の関係について、「特許性に関する実質的な理由」によって発明の一部を減縮補正した(放棄した)場合、一度放棄した権利範囲について再度権利の主張をすることはできないとし、下限pH6.0つについての補正は特許性に関する実質的な理由に基づくものではないため、禁反言が働くことを認めず、均等論の適用を認めました。

この判決による、均等論と禁案言の関係を簡潔にまとめれば以下のようになる。


「審査の過程で明細書やクレームを補正した時、その補正が“特許性に関する実質的な理由”に関するものではないと特許権者が立証した場合には、禁反言は生じません。一方、出願人がその補正が特許性に関する実質的な理由でないと立証することができない場合には禁反言が生じるものと推定されます。」

結局、ワーナー・ジェンキンソン事件の判決では、均等論を適用する条件として、特許権者に審査過程における補正が「特許性に関する実質的な理由に関する補正」ではないことを立証する義務を課したことになります。


審査においてクレームの記載を補正したとき、まず「特許性に関する実質的な理由があって補正」されたと推定され禁反言が生じるものとみなされるようになりました。出願人が禁反言の適用を反証することができず、禁反言が生じれば、権利範囲はクレームに記載された範囲に限定されることになりました。


ワーナー・ジェンキンソン事件の最高裁判決により均等論の性質・均等論と禁反言の関係性は明確になったように思われました。


確かにこの最高裁判決によって、均等論に基づく侵害ではオール・エレメント・ルールによって判断することが示され、ヒューズ事件で提唱された「全体として均等」という判断基準については改めて否定されました。


しかし、ワーナー・ジェンキンソン事件の最高歳判決でも、フレキシブル・バーとコンプリート・バーの対立に最終的な判断を結局は示しきれていませんでした。

⑧フェスト事件大法廷判決

Fest Corp., v. Shoketsu Kinzoku Kogyo Kabushiski Co,. 234 F. 3d 558, 56 USPQ 2d 1865 (Fed Cir. 2000)

ワーナー・ジェンキンソン事件最高裁判決の後、フェスト事件について、連邦巡回裁判所の大法廷は、コンプリート・バーを支持する判決を下し、物議を起こしました。大法廷判決でコンプリート・バーを支持する判決がなされたことは、均等論を厳しく制限するという大法廷での主張でした。


フェスト事件の概要は、原告であるフェスト社は、2つのシーリングリングと、磁化可能なスリープとを備えた磁気シリンダーについて、2件の特許権を所有していました。一方、被告であるSMC社は、1個のシーリングリングと、磁化不可能なスリープを備えた磁気シリンダーを製造していました。


これを知ったフェスト社はSMC社を特許権侵害であるとして提訴しました。フェスト社が所有するシリンダーの特許権とSMC社の侵害を主張された被疑製品を比較すると、シーリングリングの個数が相違し、スリープの材質も相違するため、文言上の侵害は成立しないので、均等論が適用されるか否かが争点となりました。


つまり、SMC社の被疑製品の「1個のシーリングリング」及び「磁化できないスリープ」がフェスト社の保有特許の「2個のシーリングリング」及び「磁化可能なスリープ」と均等であるかどうかが争われました。


ここで問題となったのが、フェスト社の特許権のクレームに記載された「2個のシーリングリング」および「磁化可能なスリープ」は補正により限定された構成であるされたという事実です。


CAFCにおける大法廷判決では、均等論と禁反言の関係について次のように示されました。


ワーナー・ジェンキンソン事件における「特許性に関する実質的な理由」とは、新規性及び非自明性の欠如の根拠とされた先行技術の克服に限られず、101条や112条などの特許権を取得するためのすべての要件を含むとして解釈されました。したがって、特許権を得るために行った補正は、例えば、クレームの文言を明瞭にするための補正にも、すべて禁反言を生じるとされました。

また、意見書の内容に関しても禁反言を生じることになりました。「特許性に関する実質的な理由」に関する補正ではない旨の理由が意見書など審査書類の中で明記されていない場合には、補正があれば禁反言を生じ、結果として均等論が適用されることはないとされました。


上記の回答をまとめると、均等論の適用化に関して、次の結論が導かれました。


「特許性に関する実質的に関与する拒絶理由に関連してクレームを補正した場合、その補正がクレームに記載された発明の範囲を減縮する補正であれば、補正されたクレームの構成要素に関しては均等論の適用されない」


簡単に言えば、どんな拒絶理由であっても、減縮補正をすれば、均等論は認められないとする意味です。フェスト事件の判決は、特許業務に携わる関係者・企業に大きな衝撃を与えました。フェスト判決は均等論の適用について大きな制限を加え、特許権者にとって不利な方向に移り、特許権を行使する範囲を予想以上に狭めることになってしまいました。

⑨フェスト事件最高裁判決(フレキシブル・バーの適用)

フェスト事件の大法廷判決をめぐって、様々な議論が巻き起こり、事件は最高裁判所、までもつれ込みました。そして2002年5月28日、最高裁判所は判決を下し、連邦巡回裁判所の判決を全員一致で棄却し、下級審の連邦巡回裁判所に差し戻されることになりました。


フェスト事件最高裁判判決は、これまで迷走していた均等論の適用について最終的なルールを確定するものになりました。大法廷判決は、均等論を厳しく制限するコンプリート・バーを支持していたが、最高裁はこれを棄却し、均等論の適用を柔軟に認めるフレキシブル・バーを採用したのです。

フレキシブル・バーによれば、特許を受けるために減縮補正をしたとき、その減縮補正により限定された要素について禁反言が生じると推定されますが、それでも特許権者が禁反言の推定を反証することで柔軟に均等論を主張することができます。フェスト事件の最高裁において、フレキシブル・バーが支持されたことで、均等論が近代特許法の法理として機能することが再認識されました。