特許実務com Patented!!

社畜だけども弁理士試験挑戦中。2015年4月-6月はアメリカ特許実務研修中

アメリカ特許訴訟における一連の手続の流れ、その留意事項

http://www.flickr.com/photos/70323761@N00/541468172
photo by wallyg

アメリカにおける特許侵害訴訟では、その審理が長期間にわたる上、そのため莫大に訴訟費用がかさみ、最終法廷に下された判決ではしばしば法外な賠償金の支払いが決定されます。


そのため、日本の企業は、一般にアメリカでの特許侵害訴訟を回避しようとする傾向があります。アメリカで自社が侵害者として疑われた場合、訴訟で争うか、和解か、アメリカでの販売・使用停止のいずれかの決断をしなければなりません。


アメリカで特許侵害を訴えられた場合、侵害を訴えられた基となる特許権の有効性、侵害の成否、証拠の有無などを公平かつ客観的に評価して決断するべきです。


プロパンテント政策の下、侵害訴訟では特許権者の方が有利だと言われています。しかし、他社から訴訟を提起されたとしても、他社が侵害する特許権を自身が侵害していないと思われる場合は、毅然として訴訟で争うべきです。

言い換えれば、日本企業が侵害の成否を慎重に検討した上で、アメリカで競争者に対して特許侵害訴訟を提起すれば、勝てる見込みは十分にあるはずです。

そこで、本日のテーマは、特許侵害訴訟における制度について書いていきたいと思います。

(1)アメリカの裁判所制度

アメリカでは、連邦裁判所と州裁判所とあり、裁判所が二重に存在していることがあります。連邦裁判所と州裁判所はそれぞれ管轄が異なり、特許など知的財産に関する紛争に関しての管轄権は連邦裁判所が責任を持っています。アメリカは12の裁判区に分割されており、それぞれの地区に連邦控訴裁判者が設けられています。連邦控訴裁判の下には、さらに複数の連邦地方裁判所が配置されています。


特許権に関する侵害訴訟は、まず第一審である連邦地方裁判所に提起することになります。連邦地方裁判所の判決に対して不服があって行う控訴は、第二審である連邦巡回控訴裁判所(CAFC、United States Court of Appeals for the Federal Circuit)に対して行います。CAFCは連邦控除裁判所ではなく、知的財産のためのいわゆる特別裁判所になります。


1982年以前、特許侵害訴訟に関して、連邦地方裁判所の判決に対する不服は、原則に従い各地の連邦控訴裁判所に提起していたが、各連邦控訴裁判所でばらばらに審理し、見解の統一がとれていませんでした。


そこで、1982年にCAFCを創設し、知的財産の侵害訴訟に関する控訴はすべてこのCAFCに控訴することになりました。CAFCには知的財産権を専門とする判事が専属しており、特許権侵害訴訟に関して統一的な見解を示すようになっています。


CAFCの判決に対する控訴は、最高裁判所に対して行います。最高裁判所が下す判決は最終的なものとなります。

(2)米国特許侵害訴訟の現状

アメリカでは、特許侵害訴訟が頻発し、訴訟が長期にわたる上、訴訟費用が増大にかさみ、最終的に下された判決ではしばしば法外な賠償金が決定されます。

一般的な特許権に関する侵害訴訟の例を挙げると、連邦地方裁判所の段階では判決まで1年~3年かかることが定説です。なお、審理にかかる時間は連邦地方裁判所・地方によってかなり異なります。1年以内に判決を下す連邦地方裁判所もあります。


さらに、CAFCへの控訴がなされると、CAFCの審理のためだいたい約1年かかります。この訴訟に要する期間が長期とみるかどうかは、特許の重要性、市場戦略、競合などの要因も関係して判断しなくてはなりません。


訴訟にかかる費用は、一般的な訴訟を例に挙げて、弁護士費用はディスカバリーに60万ドル、公判審理で120万ドルが平均的にかかるとの統計があります。侵害訴訟はディスカバリーの段階で、和解してしまうことも多くなります。和解できずに公判審理にまでに進み、最終的な判決に至ったとした場合、弁護士費用は総額を見積もると200万ドル~400万ドルまでかかります。


アメリカの侵害訴訟で下される賠償額は1億ドルに達することもあります。特に、侵害者側に故意であることが認められてしまった場合には賠償額が3倍に増額される、いわゆる三倍賠償があります。プロパテント政策の推進などにより、賠償金は年々増加傾向にあることは否めません。


高額な賠償金が得られるため、賠償金が得られる企業の方には訴訟にかかる費用も十分に取り返すことができます。そこで、各企業とも、特にアメリカの企業では訴訟には多額の費用を費やすことに惜しみなく投入するようになってきています。

(3)訴答段階

特許侵害訴訟は、訴状が提出されることによって開始されます。訴状は連邦地方裁判所に提出することになります。連邦裁判所によって審理の速度に違いがあり、ロケット・ドケットと呼ばれる審理のスピードが異常に早い裁判所があります。通常なら数年かかる訴訟が、ロケット・ドケットでは8~12カ月程度で結審されることになります。そのため、特許権者側は訴訟が長期化することを避けて、ロケット・ドケットをより好んで侵害訴訟を提起する傾向があります。ロケット・ドケットが採用される連邦地方裁判所として、テキサス東地区裁判所が有名です。


訴えを提起する者は、連邦地方裁判所訴状を提出する時に特許権を保有していなければなりません。ライセンスを受けただけの非独占的な実施権者は、特許権者によらず単独で訴訟を提出できません。独占的実施権者は、ライセンスを結んだ契約で実質的に特許権を譲り受けたと認められた場合には訴訟を提起でます。


訴訟を提起できる地区は、被告側が住所を有し、侵害を行い、かつ常設営業所が存在する地区になります。ただし、日本人など外国人に対して訴訟を行うことはどの地区で訴訟を提起することができます。


訴状に記載する内容には、根拠となる特許権と侵害の成立に関する主張、求める判決内容などです。


訴状は、被告側にも送達され、被告はその訴状に対して答弁書を提出することができます。被告は、答弁書には、訴状に対する抗弁、つまり特許権の非侵害、特許の無効、特許の詐欺的取得、反トラスト法違反、特許権の濫用、怠慢などの主張を記載することができます。


また、被告は連邦地方裁判所に対して反訴を提起することができます。反訴は、特許の非侵害、特許の無効などを求めることです。

ここまでの特許権者と被告とのやりとり、訴状とそれに対する被告の対応などを含む段階をまとめて答段階と呼びます。

(4)被告を併合する

特許権の侵害訴訟を提起したとき、特許権を侵害している製品が複数あって、侵害行為を行っている被告が複数人いた場合、一つの事件に複数の被告を併合することができます。被告を併合するときは、以下の条件を満たす必要があります。


1.その当事者たちが同一の製品または同一のプロセスの使用、輸入、販売の申し出、または販売に関する同一の取引等を行っていること
2.すべての被告に共通する事実に関する問題が生じていること


したがって、被告人同士の関係が浅い複数の当事者同士の複数の訴訟を併合することはできません。たとえば、単に同じ特許権について、侵害が問いたいたという理由だけでは、訴訟を併合することはできません。なお、旧法では厳格な規定ではなかったため、上記の条件を満たしていなかったとしても訴訟が併合されることはありましたが、現行法では被告の併合については認められていません。


これは旧法下においては、特許権者(原告)が訴訟を提起したときに、多数の被告に対してまとめて1つの訴訟によって、安く訴訟費用を抑えて高額な賠償を求めるという手段として使われてしまいました。また、地方裁判所ごとに併合の判断基準が異なり、決まった規定に基づいて運用がされておらず、NPE(パテントトロールなど)問題など特許権者に有利な判決が地方裁判所で下される傾向がありました。


そのような背景もあって、現行法の299条によって被告併合について制限をかけました。現行法では、特許権者が特許侵害訴訟を提起しようとすれば、異なる製品(商品名、型番)については、製品ごとに侵害者に対して別々の訴訟を提起しなければなりません。

(5)陪審審理の請求

当事者は、訴訟の初期段階において陪審審理を請求することができます。一方の当事者が陪審審理を請求すると、他方の当事者は拒絶することはできません。当事者双方が陪審審理を請求しなければ、裁判官による審理が行われます。


陪審員は通常の市民であり、特許法の法律的な専門知識や技術的素養などバックグランドを持っていない市民がほとんどであり、侵害の成否など市民の主観による見解で判断がなされ、陪審審理は問題になってしまします。


一方、クレーム記載された文言の解釈は当然法律上の争点になるので、さすがに陪審員ではなく、専門の裁判官が専属に取扱います。陪審員は、陪審審理のために、公判審理にも出席し、すべての証言と証拠を傍聴することになります。公判審理については後述します。

(6)ディスカバリーの手続

訴状答弁書の提出がされると、ディスカバリーが行われます。ディスカバリーとは、原告および被告の証拠を互いに開示し合うための手続になります。一定の事項を除き、原告・被告ともに訴訟に関連するあらゆる事項について開示を拒否することはできません


開示する義務のない一定の事項というの、アメリカの特許弁護士と依頼人の間で執り行われたディスカションの内容や通信など、特権権以外によって保護された事項のみになります。一方、パテントエージェントの秘匿特権は、特許出願を遂行する過程における通信の開示は要求されます。


なお、日本の弁理士に秘匿特権が認められるかという疑問が生じますが、従来の判決は否定的ではありますが、近年、日本企業にとって著しく不利であることから、アメリカ以外の弁理士資格の国際的な相互的な権利に関する要求が高まっています。アメリカ以外の国の弁理士の秘匿特権については今後の判例に期待したいと思います。


ディスカバリーの目的は、公判審理までにすべての真実を開示させることにあります。公判審理まで原告または被告は証拠を隠蔽することを防ぐ目的にあります。公判審理で初めて提出する証拠を持って、相手方に対して不意打ちを与えるようなことは許されません。

ディスカバリーにも長期の時間を要します。少なくとも1年、長ければ4、5年はかかることもあります。当然、その分、裁判費用も増大し、企業側の労力も多くがディスカバリーに費やされることになり、企業側にとって大きな負担になります。そのため、ディスカバリーの途中であって、訴訟における勝敗が決したり、企業側の体力がなくなり、和解という選択をしなければならなくなることもあります。


例えば、ディスカバリーの過程で、特許権者自身で特許権の無効理由を認めていたり、抵触していない証拠が見つかれば、特許権者にとって不利にならざるを得ません。ディスカバリーは、まず当事者が自主的に必要な事項を開示することになります。

自主的に開示し合った後は、質問状や書証の提出、口頭証言記録、自白要求などによって進行します。これらの当事者間のやりとりは、訴訟手続が開始したならば、繰り返し請求することができまずが、あまりにも回数がかさんでいたり、長期化していた場合に回数の制限が設けられた判例がありました。


質問状とは、質問をまとめた書面を相手方に送付し、真意を問いただすものであり、相手方は30日以内に回答しなければならないという制約があります。この質問状に対しては、正直に回答することが求められます。もちろん、真意をごまかしたような回答をしたとしても、後のディスカバリーにおいてそのごまかしたことが発覚すれば、確実に不利になってしまいます。

書証の提出とは、複写物、書面、物件等の提出を求め、または検証、写真撮影などを行うことを求めることをいいます。書証の提出にあたっては、相手方から要求された書類をする整理のために膨大な社内文書の整理、編集、分類、複写を行い、秘匿特権が及ばない書類と及ぶ書類を分け、提出すべき情報を分別する作業が要求されます。これも企業側にとっても大きな重労働になってしまいます。


検証とは、例えば、相手方の弁護士に企業内に入られ、被疑侵害品のチェックや書類などのチェックを行うことです。検証をするにあたっての対象となる場所は、アメリカに限定されず、当然日本の企業、向上、研修所においても行われます。


口頭証言記録とは、裁判所の記録者がいる場で、証人に証言させることを指します。例えば、相手方の企業内で訴訟に関わっている開発者やプロジェクトを推進している人物を指名し、証言を求めることができます。証言記録を行う場所は必ずしも裁判所の中である必要はなく、当事者に都合のよい場所が選択すればよいとされます。


また、口頭証言記録では、指名した証人に対して一定の範囲で証言を強制することも可能です。そのため、証人が証言を拒否してしまった場合には、審判官の心象形成に不利に働くことがあります。


法廷に出廷できないアメリカに居住所がない証人に対して証言を求める手段としては、アメリカ国外の任意の場所で行うことができます。証人が正直に証言した場合、口頭証言記録が心象形成にとって有効であると言われています。自白要求とは、争点となる陳述および証拠が真実であるかどうか確認することを要求します

(7)公判審理前の手続

ディスカバリーを行って、当事者は裁判官と適宜協議を行います。この協議では、ディスカバリーにより生じた課題を解決し、公判審理前の様々な双方からの申立に対処し、本番の公判審理で争点になる問題を解決するために、事実関係や真の争点を整理する作業になります。

公判審理前の協議により、公判審理命令が作成されます。公判審理命令とは、後半心理の参考のため、事実関係および法律上の争点、公判審理において証言を求める証人、証言の一覧などが記述されます。

(8)略式判決での決着

公判審理に入る前に、ディスカバリーの結果である程度決着が見えてきた場合に、略式判決により訴訟の解決を図ることも一応可能です。略式判決とは当事者間に事実関係の争いがなかったときに、どちらかが一方の申し立てによりが略式の判決で終結を求めることができます。略式判決のメリットは、公判審理にかかる費用を削減できることにはありますが、ディスカバリーの後となればそれまでに掛かる費用が膨大であったため、その費用を回収することができない可能性がたかくなってしまいます。。


また、侵害訴訟においてディスカバリーまで終わった後になって、当事者間の事実関係に争いがない状態であること自体になるというのは本来的に少ないため、一般には略式判決による早期解決を図ろうとする当事者は少ないと思われます。略式判決で解決を求めるのではなく、ディスカバリーで費やした費用を回収を目指し、頑として訴訟で争うことが一般的には多いようです。

(9)公判審理の手続と証人尋問

公判審理は、ディスカバリーにおいて特定された証拠の提出と、その証拠に基づいて証人に裏付けをとるための証人尋問の2つを行う手続になります。公判審理においては弁護士が証言することを許されていないので、自己を弁護することができません。弁護士としては、尋問を通じて証人から真実を引き出すことが求められます。


証人尋問でも自分方の呼び出した証人への尋問と、相手方の呼び出した証人に対する反対尋問と2種類あります。自分方の呼び出した証人に対しては、予め証言内容も準備をしておくもので、予定通りに証言を引き出すこともできましょう。


そのため、重要なのは反対尋問です。弁護士の腕の見せどころとして、反対尋問で相手方が予想していない事実や矛盾を尋問により引き出し、自己に有利な結論に導いていくことです。相手方の証人から自己に有利な証言を引き出せれば、それだけ勝訴の確率は高まると言っても過言ではありません。訴訟の勝ち負けについては、この公判審理における反対尋問にかかっているし、弁護士の力量や経験値に大きく依存しています。訴訟においては、本当に信頼できる弁護士に依頼しなければなりません。


反対に、自分方の証人に対しても相手方の弁護士からの尋問があります。相手方からの反対尋問に備えて、証人と綿密に打ち合わせを行っておく必要があります。反対尋問において、相手方に有利な発言をしてしまったり、自己の主張や証拠と矛盾した証言を証人がしてしまった場合、審判官の心象形成は悪くなり、その心象を覆すのは大抵骨が折れます。


公判審理の進行は、最初に原告側の冒頭陳述から行われ、その次に被告側の冒頭陳述が行われます。陪審審理が請求されている場合は、冒頭陳述が技術素養や特許法について明るくない人にも伝わるように明快かつ効果的に行わなければなりません。当然、陪審員が専門知識を持っていることは期待できないため、実際に特許権が用いられている原告側の製品と被告の被疑侵害品を目に見えるように比べるなど、プレゼンテーションが陪審員の心象形成に大きな影響を持っています。


冒頭陳述が終われば、その後に原告側が証人尋問、次いで被告側が証人尋問が行われます。個々の証人はまず一方の当事者・弁護士からの尋問を受け、次いで相手方からの反対尋問を受けます。一通りの証人尋問が終了すると、当事者から最終弁論が行われ、これまでの証言や証拠に基づいて自己の主張を総括して述べられます。


陪審審理が請求されている場合は、公判審理の後に、裁判官によって陪審員に対し説示が行われます。説示では、争点について解説され、その争点に関する法律が説明されます。どのような事実や証言に対してどのような法律が適用されるか等の一般的な情報が与えられます。

裁判官の説示が終われば、陪審員による評決がくだされることになります。陪審員に評決が出たら、その評決の結果に基づいて裁判官が判決を下すことになります。このとき、裁判官は評決の結果を裁量で変更することもある。陪審審理が請求されていない場合は、公判審理が終了すると、判決を下す。

(10)連邦地方裁判所に対する控訴

連邦地方裁判所の判決結果に不服がある当事者は、30日以内に連邦巡回控訴裁判所(CAFC)へ控訴を申し立てることができます。CAFCでは法律上の争点のみが審理されるため、CAFCにおいて証拠を新しく提出することや、連邦地方裁判所で争わなかった別の争点を持ち出すことはできません。


CAFCの進行では、最初に控訴した当事者が準備書面を提出します。次に他方の当事者が反対書面を提出します。さらに、控訴した当事者からが弁駁書を提出することもありますが、書面の提出はここまでで完了します。


続いて、口頭弁論が行われます。口頭弁論では、当事者の弁護士による弁護が認められるのはだいたい30分程度しかありません。弁護士は30分の短い時間で争点について当事者からの主張をまとめておかなければなりません。


口頭審理の後、数か月以内にCAFCから判決が下されることになります。判決の内容は、地方裁判所の判決を維持、破棄または修正するか、地方裁判所へ審理を差し戻されるのかいずれかの結論を下されます。


CAFCの判決に対しても納得できず、不服がある当事者は90日以内に最高裁判所に対してさらに控訴することもできます。控訴の申し立てを受けた最高裁判所は事件について再審理をするかどうかを決定します。事件が重要であると判断されれば、最高裁判所は再審理を開始を命じますが、実際には再審理を命じられることは多くありません。