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特許実務com Patented!!

社畜だけども弁理士試験挑戦中。2015年4月-6月はアメリカ特許実務研修中

訴訟の代わりに特許の有効性を争う当事者系レビュー

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Scales Of Justice

当事者系レビュー(IPR:Inter Partes Review)は、特許付与後に第3者が特許の有効性を争う手段の1つになります。当事者系レビューは、旧法の当事者系再審査に代わり新設された制度になります。

まず、アメリカの特許法が改正される前には、その特許の無効を申し立てるには次の3つの手段がありました。
 ・地方裁判所における訴訟。
 ・査定系再審査
 ・当事者系再審査

この3つの制度のうち、当事者系再審査は、その制度固有する問題があり、第3者にほとんど利用されることはありませんでした。そのため、2011年の改正法によって、当事者系再審査は審査的な手続きから裁判的な手続きに変えられ、当事者系レビューとして新たに生まれ変わりました。

この当事者系レビューは、日本の特許制度でいうと無効審判に相当する手続きになります。しかし、日本の無効審判は特許を付与した手続を第三者によって行政処分を取り消しを請求する手続ですが、アメリカの当事者系レビューは連邦裁判所による訴訟の代替手続です。第三者が訴訟手続きよりも迅速かつ敷居の低い手続を提供することを目的にしています。

(1)背景

1980年代のアメリカの特許制度には、特許権の有効性を米国特許商標庁が審査する再審査という制度がありました。この再審査では、特許権者自らまたは第三者が請求することができました。この再審査は、費用と時間がかかってしまう地方裁判所へ訴えることに代わり、安く迅速に手続きが進行できる、ことを期待されていました。


しかし、初期の再審査を以下に書いたような制度上の制限があったため、訴訟に代わる手続きとして再審査を利用されるケースが少なくなってしまいました。た。

新規性・非自明性に基づく請求しかできない

再審査では先行技術(新規性・非自明性)に基づく請求に限られ、先使用、先販売による請求は認められず、さらに101条や112条に基づく請求も認めませんでした。結果として、特許の無効を申し立てる第3者の請求は少なく、第3者は裁判所で特許の有効性を争うことを選択する傾向が強まりました。

第三者は直接審理に参加することができない

初期の再審査では、いったん審理が開始されると、第3者である請求人は審理に参加することができません。第三者は再審査の請求の際に意見を訴えることができるだけになります。その一方、特許権者は審理全体を通じて審査官と意見を交換する主要の機会が与えられていました。そのため、再審査の審理結果では、自ずと特許権者に有利な結果をもたらす方向に力が働きました。

第3者は不服の申し立てができない

第三者である請求人の場合、第三者がアメリカ特許庁での審理で敗れてしまっても、上級裁判所へ不服を申し立てる手段がありませんでした。第三者が審理の結果に不服を申し立てることができない制限は、第三者にとっては再審査の魅力を損なわせる結果を招きました。

さらに、第三者にとって都合の悪いことに、再審査は決して低コストとも言えなかったのです。費用の割には、審理の決定まで数年がかかってしましました。これは再審査が審査官と審判官の二段の手続を踏んでいたためです。
低コストで迅速な手続を売りにして始められた当事者系再審査でしたが、結局、費用の割には時間がかかり、異議を申し立てる機会も与えられないので、最初から訴訟を起こした方が確実に自分の意見を訴える方が理に適うことになってしまいました。

②査定系と当事者系2つの再審査の並存した時代

議会は、再審査制度に対する批判に応じて、1999年に「第2の再審査」として、これまでの再審査を査定系再審査とし、新たなに当事者系再審査を創設しました。

新設された当事者系再審査では、特許権者が見解を提出があれば、第三者である請求人に反論する機会が与えられました。これにより当事者系再審査では


1999年に当事者系再審査が導入されたとき、アメリカ特許商標庁は1年目に400件、2004年の5年間までに年間600件の当事者系再審査の請求を予想していたそうです。


しかし、蓋を開けてみれば、当事者系再審査の請求は1件もなく、で2004年にもたった27件しか請求されませんでした。結果として、当事者系再審査が導入された5年間で53件しか請求されなかった散々たる結果になってしまいました。


当事者系再審査が定着しなかった理由としては、主として、第3者である請求人に禁反言が課せられるリスクが極めて高かったことがあります。当事者系再審査で特許性が認められたクレームについて、それ以降は原則として請求人は、当事者系再審査の手続中で提起しました。あるいは提起することができたでしょう。

問題に関して無効を主張することは認められませんでした。例外的に、旧法315条(c)317条(b)には「当事者系再審査の手続中に入手することができず、そのあとに新しく発見された先行技術に基づく主張を妨げません。」旨の雄但し書きがあったものも、この例外の要件は満たすかどうかの判断基準が不明確なままでした。結果として、禁反言のリスクを嫌い、第3者は当事者系再審査を利用しなくなっていました。


手続面からみても当事者系再審査は様々な問題がありました。特許権者がオフィスアクションに対して応答する必要がない場合には、請求人はそれ以降主張の機会を得ることができませんでした。また、旧法314条(b)(2)では、特許権者が答弁した後に請求人は30日という短い日数で弁駁しなければならず、請求人に過度の負担を課すものとなっていました。短期間で十分な問題提起もできないまま急いで弁駁所を提出し、その上に禁反言が課せられるとなることを考慮すると、第3者利用を躊躇するのは当然でした。

さらに、当事者系再審査とともに従来からの査定系再審査も存続しており、当事者系再審査が強い禁反言の効果が規定されていたのに対して、査定系再審査にはその規定がありませんでした。また、査定系再審査では特許性に関する実質的に同一の問題に基づいて請求人が複数の請求を連続的に提出することを認めていたこともあり、請求人の心理への参加を認めた当事者系再審査の利点も薄れてしまっていました。このように、第3者は当事者系再審査のメリットを享受できず、高い禁反言のリスクを考えると、当事者系再審査に代えて迂回路として査定系再審査を請求した例も少なくもなかったと思われます。

(2)概要

当事者系レビューの特徴として、以下のようなものが公式に挙げられています。
 ・付与後レビューよりも審理開始のハードルが低い
 ・禁反言が課せられている
 ・当事者系レビューをした場合は訴訟が起こせない
 ・審理が早い
 ・訴訟的な手続も利用できる
 ・費用が高額である
 ・包括的審理ルールが適用される

付与後レビューよりもハードルが低い

当事者系レビューは、付与後レビューよりも審理開始のハードルが低く設定されています。当事者系レビューは、「請願により申し立てられたクレームに関して、請願人が優勢であるという合理的な見込みがある」場合に限り、審理が開始されます。つまり、当事者系レビューでは、請願人に50%程度の勝機が審理開始の条件になります。

一方の付与後レビューでは、請願人に50%以上の勝機が必要になります。微妙な違いではありますが、付与後レビューよりも当事者系レビューは審理開始のハードルが低いと言えます。

※ちなみに、旧当事者系再審査では、数も少なかったということもありますが、95%以上の請求が受理されて、審理されていました。また、日本の無効審判においては、方式審査が通れば審理が開始されます。

禁反言が課せられている当事者系レビューでも禁反言が課せられています。ただし、その禁反言の範囲はこれまでの当事者系再審査よりも合理的な範囲に適正化されています。

当事者系レビューでは、当事者系レビューにおいて請願人が提起した理由、または“合理的に”提起することができた(raised or reasonably could be raised:315(e))であろう理由に基づいて、再度無効を主張できません。

どこまでが合理的に提起できることができた理由なのか、今後の判例について裁判官の考え方待つことになるのでしょう。

当事者系レビューをした場合は訴訟が起こせない

先に当事者系レビューを請願した後は、特許の有効性を争う訴訟を提起しても受け付けてくれません。

第3者は当事者系レビューを特許のクレームの有効性を争う訴訟を提起する前に請願しなければなりません。特許訴訟の訴状が送達された後、1年経ってしまった場合は、当事者系レビューの請願を提出できません

つまり、特許権の有効性を争う手段としては、当事者系レビューと訴訟のどちらかを選択しなければなりません。

審理が早い

当事者系レビューの審理は早急に進みます。当事者系レビューの審理は、当事者系レビューの開始を認めた日から1年以内に特許庁長官から最終結果が出されます。ただし、正当な理由あれば、特許庁長の権限でその期限を最大6か月延されることがあります。

当事者系レビューでは、請願人と特許権者に意見を述べる権利が少なくとも1回は与えらますがそれでも早期審査として処するために意見を述べる回数は少ないことを覚悟しなければなりません。

訴訟的な手続も利用できる

訴訟的な手も利用することができます。取り入れ当事者系レビューでは、ディスカバリーの手続や専門家や発明者の証言録取の手続をとることができます。

また、当事者は口頭審理を請求すことができます。口頭審理は審査官よって実施されず、特許審判部の行政特許審判官によって実施されます。

当事者系レビューも高額

当事者系レビューは、例えば、クレーム数1から20までであれば、$27,200の庁料金がかかります。クレーム数20を超えた場合は、1クレームごとに$600が加算されていきます。また、旧法での査定系再審査の庁料金が$2,520だったので、10倍以上の高額になってしまいました。

包括的審理ルールも採用される

当事者系レビューの審理手続には、付与後レビュー、冒認手続およびビジネス方法などの特許暫定プログラムと同じ統合化された審理ルールが適用されます。

(3)対象

すべての特許が当事者系レビューの対象となる。これまでの当事者系再審査では、1999年11月29日以降の特許出願に対して付与された特許権のみが対象でした。当事者系レビューでは、いわゆる1999年限定が廃止されています。

(4)請願人

当事者系レビューの請願をすることができる者は、特許権者ではない第3者に限られています。当事者系再審査は特許権者自身による請求が可能でした。しかし、当事者系レビューは、訴訟に代わる特許の有効性を争う代替手段であるため、特許権者が請願することを認めていません。


また、当事者系レビューを請願する時は、その請願における当事者を明らかにし、匿名による請願は認められていません。

例えば、当事者系レビューについて最終決定がされた後に、諦められない請願人が同じ理由(合理的に提起できたであろう理由も含む)で、その後無効手続を請求できないようにするためです。特許審判部が当事者レビューが誰が請求したかについて知る必要があるためです。

(5)当事者系レビューを請願できる時期

当事者系レビューを請願できる時期は基本的に2つの期間になります。
 ・特許権が付与されたまたは特許権が再発行された後9カ月以降
 ・付与後レビューの審理が開始された場合は、その付与後レビューが終了した日以降

付与後レビューとの大きな違いの一つが請願できる期間です。付与後レビューは特許が付与されてから9カ月以内にしか請願することができません。一方で、当事者系レビューは、特許権が付与されてから9月目以降から請願することができるようになります。


付与後レビューが開始された場合には、付与後レビューが終了した後で、当事者系レビューを請願することができます。当事者系レビューは、付与後レビューを請願できる期間と重ならないようになっています。


また、上述したように第3者は当事者系レビューと訴訟のどちらかを選択することになります。これは訴訟との関係で過去の記事にでも触れているので、そちらも参考にしてほしいです。

(6)当事者系レビューを請願する理由

当事者系レビューでは、すべての拒絶理由で争うことができません。当事者系レビューは、102条(新規性)、103条(非自明性)に対する拒絶理由のみに基づいて請願することができます。新規性・非自明性以外、法定の主題(101条)や記載要件(112条)などに基づいた拒絶理由で請願することはできません。


また、当事者系レビューを請願するときは、特許または印刷刊行物に記載された先行技術に基づいてのみクレームの無効を請願することができます。したがって、特許や印刷刊行物しか認められず、公用、販売、その他公衆に入手可能であった事実だけでは無効を申し立てることができません。

一方で、付与後レビューでは、特許または印刷刊行物に限られず、すべての拒絶理由に基づいてクレームの無効を主張することができます。

(7)当事者系レビューの手続について

①当事者系レビューの請願の方式

当事者系レビューを請願するときは以下を準備する必要がある。
 ・庁料金の支払い
 ・当事者の特定
 ・対象となるクレーム
 ・各クレームの無効申し立ての根拠となる理由
 ・各クレームへの無効申し立ての理由を裏付ける証拠

証拠としては、根拠となる裏付けとなる特許の公開公報または印刷刊行物の写しを提出します。証拠としては、当事者系レビューの請願人が法律家、科学者などの専門家の見解も合わせて提出することができます。見解を述べる専門家の宣誓書や宣言書も提出します。無効の対象となるクレームや理由、証拠について書面で詳細に説明することができます。


当事者系レビューの請願人は、書面において、無効の対象となるクレームを特定し、無効を申し立てる法的根拠について記述します。無効を申し立てるクレームにミーンズ・プラス・ファンクション(MPF)は、明細書に記載に基づくクレームの解釈やそのクレームの各機能に対応する構造、材料などについて指摘することなどができます。

②当事者系レビューの庁料金

当事者系レビューの庁料金は次の計算できます。
 ・クレーム数が20以下の場合、$27,200
 ・クレーム数が20を超えた場合、1クレームごとに$600が加算される
 
当事者系レビューの庁料金は付与後レビューの庁料金よりは、安く設定されてはいるのですが、それでも高額である印象は否めません。簡単に利用できる制度ではないはず。また、当事者系レビューの請願に庁料金を支払ったとしても、審理が開始されなかった場合でも、庁料金を返還されることもありません。(旧当事者系再審査では、庁料金の一部が返還されていたので、もしかすると今後、返還されることがあるのかもしれません。)

③当事者系レビューの請願に関する書類のページ制限

当事者系レビューの請願に添付する書類は、60ページ以内であることが求められます。つまり、端的にかつ正確に無効理由を主張できるか、特許弁護士や出願人の主張をまとめなければなりません。なお、付与後レビューの請願の書類は、80ページ以内となっているので、付与後レビューの請願よりコンパクトにしなければなりません。(目次や、証拠書類のページは対象外)

(8)当事者系レビューの審理開始

①予備応答の機会が与えられる

当事者系レビューの請願が受理されると、特許権者には、指定された期間内に予備応答をする機会が与えられます。この予備応答では、当事者系レビューの審理が開始されるべきではない理由を述べることが許されています。

特許権者による予備応答の手続

特許権者が予備応答をすることができる期間として、通常の審査の拒絶理由と同じく原則3カ月が指定されます。ただし、予備応答は任意であり、特許権者は必ず予備応答する必要はありません。特許権者は、予備応答する機会を放棄することで、審査の促進することもできます。。

なお、この予備応答に応答する際にクレームを補正することはできません。クレームは、当事者系レビューの審理が開始されることで補正することができます。

ただし、クレームの補正はできなくても、特許権者は無効を申し立てられたクレームを放棄することはできます。予備応答時に対象となるクレームが放棄されると、当然、当事者系レビューの審理は行われません。

③特許長官による当事者系レビュー開始の決定

特許権者から予備応答で反論があると、特許庁長官は請願人と特許権者の主張を参考に、対象となるクレームに関して、請願人の主張が優勢であるという合理的な見込みがあるかどうかを検討し、請願人が主張が優勢であるという合理的であると判断した場合に当事者系レビューの審理が開始されます。従来の当事者系再審査と比較しても審理開始の条件の敷居は高く設定されています。従来の再審査よりも開始の条件の敷居が高い。


当事者系レビューの審理開始の決定についても迅速に対応されます。特許庁長官は、予備応答が提出された日、または予備応答が提出されなかった場合は予備応答を提出することができる期間の最終日から3カ月以内に下されることになります。また、開始の決定されると、その事実は請願人および特許権者にも速やかに通知されます。


なお、当事者系レビューの審理開始するか否か特許庁長官の決定に対しては不服を申し立てることが許されません。一方、付与後レビューの開始基準よりは低く設定されています。これについては付与後レビューに関する説明を参照してほしい。

(9)当事者系レビューの後の審理

当事者系レビューの申し立てられた後は、付与後レビューと同じく、特許権者による答弁や特許権者によるクレームなどの補正、審理の進行、和解、決定と不服申し立て、禁反言について適用されます。