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特許実務com Patented!!

社畜だけども弁理士試験挑戦中。2015年4月-6月はアメリカ特許実務研修中

コカ・コーラ―に学ぶ営業秘密管理能力。~発明を保護する方法は特許権だけではない~

コラム 営業秘密

コカコーラーと営業秘密

発明が完成すれば特許出願をすればよい、というわけではない。

私の勤めている企業ではまだ古臭く、特許の出願件数で自分の成績を語る人が少なからずいます。知財担当者としてこれは非常に残念です。

ただ特許出願したことと、その後、権利になったことは違うからです。

先日も「俺は今まで何十件も特許を出願してきたから、3年目のお前よりもずっと特許については詳しい」といってきた発明者の方がいて、少し頭にきて「すごいですねぇ、それで何件権利になったんですか?」と思わず言ってしまった。(ちょっと大人げなくて反省)

こういう人ほどほとんど権利になっていない。。。この現実、知財担当者としては寂しいものです。


出願してしまえば俺の仕事は終わりっていう人もすごく多いと感じるのが、少し大きな企業の知財部からみて分かります。会社の評価でも、特許権の出願件数がノルマ化されているけど、特許権になったかどうかは知らない・・・そんな発明者が多い。

日本の特許出願件数は多いけど、そのほとんどが実用化されていない、というのが問題視されてて、それは日々の技術部からの相談でよく分かります。

とりあえず出しておいて、とか、部長が何か出せ、って言ったから、権利にできないのはお前の腕が悪いとか。もう聞き飽きてきましたよ、ほんと。


もっというと特許出願がベストっていうわけでもありません。特許出願する、あえて悪くいうと特許出願をしてしまうこと、それは会社の情報を他者に公開していること、この事実をきちんと把握している発明者の方ってどれくらいいるのでしょうか。


発明を知財権に変える方法は何も特許出願だけとは限りません。


特許出願のような開示されてしまった知財よりも、発明を出願せずにいわゆるBlackBoxでバレなようにして守る守秘知財のほうがよっぽど強力な場合が多くあります。基本的に特許権は20年間で権利が消滅してしまいますからね。


特許で保護しなければいけない理由は、侵害者に対して侵害品の差し止めや損害賠償などの強い権利行使を可能にすることです。

しかし、特許出願をすることの代償もあって、公開制度によって発明の内容に誰でもアクセスできるようになってしまいます。


例えば、商品の製造方法に関する発明は特許出願をしないことも戦略としてアリです。そもそも製造法の特許の場合、出来上がった商品にその作り方の痕跡が残らない場合、その製造プロセスをひそかにまねされても侵害を見つけることができないことが往々にしてあるからです。

特許は出願すると公開される、この観点はすごく重要です。公開してしまうことは、他人に改良のヒントを与えることと同じだからです。

コカ・コーラーの繁栄もBlackBox化にある

あのコカ・コーラ社の製法を知っているのも、現在、世界中で2人だけだそうです。コカ・コーラーが初めて製造されたのは1886年。正確なレシピは厳密に管理されています。たった1枚のレシピはアメリカの国内のどこかの銀行の金庫に保管されているそうで、コカ・コーラー社の社内規定で、信頼のおける2人の人間にしかレシピを教えない、ことが決まっているそうです。

世界の名だたる科学者がコカ・コーラーの成分を分析しましたが、未だにあの独特な香りの調合方法は特定されていません。一度、コカ・コーラーの生みの親、ジョン・ペンパートンの実験ノートの一部の写真が公開されたことがあります。

その時は、確かに実験過程の一つとされていましたが、現在のレシピと一致しているのかは定かではなかったし、香料の原料には“7X”とあって、この7Xが何を指すのか、謎が謎を呼んだそうです。

このノートの一件から、コカ・コーラー社はさらに厳重にレシピの保護に努めました。社内から仕入れた原材料とリークされるのを恐れ、ラベルには一切その材料の名前が貼られることはなく、缶の色や置き場所で特定する方法を取り、請求書にもその原材料の名前が消えたそうです。

だからコカ・コーラー、コカ・コーラーのブランドは130年近くたったいまでも、唯一無二の存在となり、世界で最も有名な清涼飲料水のポジションをキープできているのです。もし、コカ・コーラーの製法が特許として出願されていたら、現在のコカ・コーラー社のポジションをキープできていないでしょうね。


こんなコカ・コーラーの例のように、優秀な発明が生まれても無条件で特許出願をすればよいというわけではありません。

発明が完成されたらまずは社内で文書化することで、人材流出による情報漏洩のリスクを下げる

知財化するとは、まず社内で開示知財やノウハウのような守秘知財のいずれかであっても、まず社内のマニュアルとして文書に残すことです。特許として権利化するにせよ、守秘化するにせよ、後々、権利行使できるようにきちんと文書にして社内で管理することは重要です。

文書に残した後、その中で特許出願をして保護して意味のある発明か、出願せずに営業秘密として守秘化するのかを決定するプロセスを踏むのです。


さて、最近の日本の技術流出のほとんどは、技術を持った人材を通じての流出だと断言できます。それはなぜか。20年以上前まで、中国・韓国企業が日本企業をこぞって真似ていた時代、彼らは日本の権利化されなかった特許出願を読み漁って商品を作っていたと聞いています。しかし、やはり特許情報だけで商品を100%真似して作ることはできません。

品質の良い商品を作るためには、ノウハウ・技能・知識情報を持つ人材をヘッドハンティングしないと、商品になるところまで至らないのです。日本の技術者をヘッドハンティングしたほうが、一から研究・実験をして開発するよりも、はるかに効率がよくて低コストに目的を達成できるに違いありません。

知財化における重要なポイントは、特許出願よりもまず人による技術流出を防止するために、開発成果などの技術情報をきっちりと文書化して技術資産として適正に管理し、誰がその技術・ノウハウを理解しているか、を管理することです。


さらにそこから生まれた発明などのうち出願しないものは、不正競争防止法による営業秘密の保護(営業秘密には、顧客名簿、販売マニュアル、仕入先リスト、財務データなどの営業上の情報、製造技術、設計図、実験・研究ノートなどの情報も含まれます。)や先使用権の権利を行使できるように、日付と作成者などの具体的内容を明記して電子認証などにより守秘情報として管理し、開発技術にもこの情報は会社資産であることを周知徹底し守秘義務契約をするべきです。


残念ながら人材を流出させたとしても、辞めた人間はもともと務めていた会社が保有する営業秘密を持ち出すことはできません。ここまでしてようやく人材の流動化に伴う貴重な技術情報の拡散の歯止めの一歩になります。(完全に流出を防ぐことはもはや不可能に近いかもしれませんが。)


会社は、このような技術情報の文書化とその知財化を徹底した守秘知財戦略の方が、特許のような開示知財戦略よりも有効だった例が数多くあります。守秘知財で有名なのは、コカ・コーラーの製法です。コカ・コーラーの製法は材料や製法情報を分散して別管理することにより漏洩を守っています。

今後は日本でも営業秘密に関する訴訟が増えるはず

今後の日本企業の特許出願戦略の王道は、商品の顧客価値を与える主要な性能機能に関する発明でかつ侵害発見が容易な発明に限定して国際出願をし、その他の多くの発明は守秘知財化を検討する、ことになっていくのではないでしょうか。

この方が、特許の質も上がり、無用な情報のばら撒きがなくなり、漏洩を未然に防ぐこと、企業利益につながると思います。研究開発投資には莫大な金額をかけ、その金額を回収することなく、競合に横取りされ、本来この部分に投資すべきものをマーケティングや設備投資に回されては競争として不公平極まりありません。

守秘義務契約については、労働の自由との関係に関して議論されるかもしれませんが、社員として会社で給料をもらい研究開発した成果物はその会社に帰属するべきものだと思います。その点、職務発明に関する法改正については特許庁の主張の方が筋が通っているように思います。

まぁ、私が勤めている会社でも、発明したことによる対価について、いろいろ発明者からの意見や反対がありましたが、それはボーナスや報奨金、昇進に反映させてやれないか、会社側の誠意の見せ方なのでしょう。

ちなみに日本では、守秘知財に関わる訴訟事例はまだそこまで数が多くはありません。しかし、知財大国・訴訟大国のアメリカでは頻繁に起こり得ます。(もともと先発明主義を取っていましたからね。)

そして、社員を引き抜かれた営業秘密を漏洩されたことに対して起こされる裁判では、ディスカバリー制度を使えば、訴えた側が有利になる例がほとんどです。日本の企業が訴えられることも多々あります。

日本の大手では、東芝がトレードシークレット(営業秘密違反)で訴えられ、数百億円という巨額な損害賠判決が出たことが記憶に新しいですね。その反省か、東芝は営業秘密漏洩に関する訴訟をいくつか訴えていますね。

これから日本でも営業秘密流出に関する訴訟が増えるかもしれませんね。要チェックや。


コカ・コーラの製法の絶対秘密についてこんな本が出版されていますね。ちょっと買って読んでみよう。

レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?:特許・知財の最新常識

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