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特許実務com Patented!!

社畜だけども弁理士試験挑戦中。2015年4月-6月はアメリカ特許実務研修中

特許権の消尽に関する日本の判例BBS事件、インクカートリッジ事件の紹介~タイヤの特許権は車に権利行使できるのか?~

判例 判例-日本判例

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自分たちが販売した商品を使った第3者の商品に特許権を行使することができるのか?

ご無沙汰しております。だいたい1カ月ブログの更新が滞っていました。特許に関することをネタにするとどうしても一つ一つの記事が長くなってしまい、PCと対面する時間が長くなり、そして集中力が切れて記事を完成させるまでに時間がかかってしまいますね。。

さて、そんな愚痴はおいておいて、今日のブログのテーマは特許権の消尽について関した記事にしました。

先日、担当の技術者から特許権の消尽に関して質問がありました。たとえ話にして紹介します。

うちがタイヤに関する特許権を持っていて、自動車メーカーにそのタイヤを販売して、その自動車メーカーが、うちが売ったタイヤを使った自動車を誰かに販売したときに、その自動車を販売する行為に対してタイヤの特許権を行使できるの?これができたら部品メーカーが特許において絶対的に優位じゃないか。

さて、この答えについてはNoですね。上の例だとタイヤを販売した時点で、特許製品を独占して販売できるという特許権の権利を行使して、かつその対価を受けていることから、その後の流通において、特許権は行使することができない、と答えました。(間違いがあれば指摘して欲しい・・・)

これを特許権が消尽した、と言います。今日は、この特許権の消尽が確立した経緯について日本の判例をみながら、この記事にまとめていきたいと思います。(あくまで個人の勉強用ですが、アメリカの判例についても触れたかったのですが、長くなってしまうのでそれはまた別の機会にします。)

特許権の消尽論

さて、本題に入る前に特許法68条を見直したいと思います。

特許法68条では、特許権者は“業”として特許発明を実施する権利を専有する、と規定されています。そして、特許法の2条3項では、「モノ」の特許発明に関し、その生産、使用、譲渡など、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申し出をする行為が、「モノ」の特許発明の実施に相当します。(特許法2条3項)。

 そうするとAさんが特許権者(または実施権を許諾された者)から特許製品を買ってきて、さらに特許製品を仕事の一環として使用したり、Bさんにに転売したりすることは、特許法2条3項に規定されている“業としての特許発明の実施”に該当することになるので、特許権を侵害することになってしまいます。

しかし、特許権者等が適法に譲渡(つまり、売却)特許製品に対し、流通するたびに特許権者の許諾がない限り特許権の侵害になるならば、特許製品の円滑な流通が阻害されてしまいますよね。

一つの製品を完成させるまでにいくつもの下請け会社を転々とすることなんてよく聞く話で、そのたびに特許権の行使ができれば、それこそ一番最初の質問と同じく部品会社で特許権を持っている立場が一番得をする、ことになります。

そこで、基本となる考え方は、特許権者は、最初に特許製品を譲渡する段階で、特許権として技術公開を行った代償に利益を得る機会があるので、その際に正当な利益が得られるということです。また、最初の譲渡タイミングで利益を受けているにも関わらず、それ以降の流通に関して延々と利益を得られることで良いのかどうか、議論されることになりました。

そこで、一旦、適法に特許権者等から譲渡等された特許製品には、その後の販売、使用等の実施行為には特許権を行使することができない、つまり、最初に譲渡等をしたときに特許権の目的が達成されたと考え、特許権の権利は消尽すると解釈されました。

この考え方を“消尽理論”と呼び、特許権侵害訴訟において、特許侵害を疑われた被告人の実施が非侵害を主張するときにしばしば使われる抗弁になっています。特許権者から特許製品を適法に仕入れたのだから、そのときに特許権は消尽している、といった具合ですかね。

さて、消尽理論が確立したきっかけとして、日本の判例では「BBS事件」が有名です。「BBS事件」の最高裁判決に“消尽理論”が確立されました。この「BBS事件」弁理士試験でも良く問われている判例なので、受験生は覚えておかなきゃならない判決です。

BBS事件

それでは、この「BBS事件」の概要を説明します。

BBSとは自動車用アルミホイールについてドイツと日本で特許権を持っていたドイツの会社の名前です。日本の輸入業者は、ドイツでこの特許製品を購入し、日本に輸入してそのアルミホイールを販売していました。

BBSはこの日本輸入業者の輸入の行為が、彼らが日本で持っている特許権を侵害する行為として、差し止め請求を訴えて裁判が始まりました。

最初、東京地裁の第一審では特許権者側の訴えを認め、東京高裁の控訴審の判決では東京地裁の判決が覆り、日本の輸入業者の特許侵害が否定され、差止請求は認められませんでした。

ここまでもつれもつれ、最高裁まで争うことになり、結局、最高裁では東京高裁の結論を支持しました。

最高裁では、「特許権者又は実施権者が我が国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権の目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものと言うべきである」と判事しました。

つまり、特許製品を適法に購入した後の輸入は特許権の侵害行為に該当しない、と判断したのです。

これを言い換えて、最高裁は、特許権者により適法に譲渡等された特許製品については、特許権はその目的を達成したもとして消尽し、その後の特許製品の譲渡等には特許権の効力は及ばないとする、消尽論が確立されたことになります。

そして、この判決に至った根拠としては、譲渡(輸出・輸入を含む)のたびに、特許権者の許諾が必要であるとなってしまうと、特許製品を自由に流通させることができなくなってしまうことが危惧され、また特許権者にとって最初の譲渡ときに特許発明の公開の代償を利益等で確保することができるのであるから、流通過程においてたびたび利益を得ることは、特許権者が二重・三重またはそれ以上の利益を得ることになり認められない、としました。

修理行為と新たな製品の生産行為の差

「BBS事件」の判決で確立された消尽理論によって、特許権者等から適法に譲渡された特許製品に特許権の効力が及ばないことが明確になりました。つまり、原則として適法に譲渡された後であれば、特許権者以外の第三者における使用、再譲渡する行為などに対して特許権の効力は及びません。(原則として、としたのは判決の結果に基づくものであるから将来的には変わる・・・かもしれない。)

なので、特許製品を適法に購入した者が特許製品を業として使用しても特許侵害にはなりません。また、使用のため、または誰かにその特許製品を譲渡するために特許製品の修理を依頼した場合でも、当該製品の使用を継続するために必要な部品を交換する程度の修理であれば、その特許製品と同一性の範囲内にあり、その修理行為に対して特許権の効力が及ぶことはないと解釈するのが原則です。

しかし、ここで消尽論の解釈に対して、意見の分かれる議論がありました。その議論とは、特許権者等から購入した特許製品を、単なる部品交換による修理ではなく、改良によって新製品として生産する生産行為、またその新製品を販売など譲渡する行為することにも特許権の効力が及ばないのか、どうかです。

このような新製品を生産する行為については、特許権が消尽したとはならず、特許権の効力が及ぶとする判決が出ました。

では、どこまでの行為が修理であって、どこからが新製品の生産に該当するのでしょうか。

日本の特許制度において、初めて特許権の消尽の基準を判断する指針となった判決が下されました。この判例がインクカートリッジ事件”になります。このインクカートリッジ事件もBBS事件と同じく弁理士試験の試験範囲の対象になり、短答などで良く問われています。

インクカートリッジ事件

この事件は、インクジェットプリンタ用のインクタンクについて国内で特許権を有する被上告人が、特許製品であるインクジェット用のインクタンクを回収し再販していた上告人が輸入・販売等について差止請求等を訴えた事件になります。

ここで、問題の対象になった被疑侵害品は、特許権者が販売したインクタンクを国内及び国外からかき集め、その内部を洗浄し、新たにインクを注入して販売していたリサイクル品になります。

つまり、リサイクル品である被疑侵害品が、特許権を抵触するか、あるいは特許権の消尽してしまい特許権者が権利行使できなくなるのかが争点になりました。

ここで、被疑侵害品の特徴を書いていきます。
1.特許製品であったインクタンクの使用済み品を洗浄し、新たしくインクを注入し、製品化していた。

2.特許製品の使用済品のインクタンクには、内部に残存するインクが固着しており、単に新しいインクを注入するだけでは十分にインクが充填されない。

3.そこで被疑侵害品は、①使用済品のインクタンクを洗浄し、タンク外部にインクを注入するための穴を空ける工程、②インクタンクのインク供給口からインクが漏れないような工夫を施す工程、③①で空けた穴から新しいインクを注入する工程、⑤上記①で空けた穴とインク供給口に栓をする工程、⑥ラベル等を貼り替える工程が経てリサイクル品として完成する。

4.インクタンクの内部を洗浄することで、固着していた残インクを洗い流し、インクタンク内部の圧接部の界面において空気の移動を妨げる障壁を形成する機能を新たに付与し、液体収納室にインクがほぼ満杯に充填することができ、特許製品の機能であったインクタンクの姿勢に関係なく、インクジェットの圧接部で界面全体にインクを保持できる機能を発揮する状態になった。

インクカートリッジ事件の最高裁判決は、「BBS事件」の最高裁判決の判事内容を肯定し、「特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ、それにより等が特許製品と同一性を各特許製品が新たに製造されたものと認められるというときは、特許権者は、その特許製品について特許権を行使することが許されるというべきである。」と判決を下しました。

また、本件について裁判官は、「---<中略>---上告人製品の製品過程における加工等の態様は、単位消耗品であるインクを充填しているにとどまらず、インクタンク本体をインクの充填が可能となるように変形させるものに他ならない。---<中略>--- 上告人製品の製品化工程における加工等の態様は、単位消費されたインクを再充填したと言うにとどまらず、使用済みのインクタンクを再使用し、本件発明の本質的部分(つまり、圧接部の界面において常にインクを保持した状態とし、これにより空気の移動を妨げる障壁を形成する機能を果たす)にかかる構成を欠くに至った状態のものについて、これを再び充足させるものであるということができ、本件発明の実質的な価値を再び実現し、開封前のインク漏れ防止という本件発明の作用効果を新たに発揮させるものと評せざるを得ない。---<中略>---上告人製品については、加工前の被上告人製品と同一性を欠く特許製品を新たに製造された者と認めるのが相当である。」と判事しました。

インクカートリッジ事件においては、特許製品の本質部分を失った状態のものに新たな構成を加え、特許製品と構造+構成要素が含まれている点から加工前の特許製品とは同一性を欠き、新たな特許製品が生産された、とみなされたことになります。

そして、その新たな特許製品は特許権で保護されている範囲を充足していることから特許権を抵触していると判断されました。

また、このような判事至った根拠の一つとして、本来、インクタンクは1回で使いきる消耗品であり、使用済みインクタンクが一度廃棄したものを回収していたという事実にも判事では触れられており、取引実体を考慮した総合的な判断だったと思われます。

知財、この人にきく〈Vol.2〉トヨタ歴代知財部長

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